†【近藤+etc】

□災難
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程よい疲労に、うつらうつらと眠りにつこうとしていた時だった。
襖の向こうから感じられた僅かな気配に、土方は目を開いた。
視線を向けると、襖の向こうに黒い影が揺れた。

『トシぃ…寝てる?』

なぜか妙に弱々しく、だが聞き馴れた野太い声に、土方は『…あ?』と声を出して体を起こした。

それを合図に恐る恐る襖が開けられると、寝間着姿の近藤が顔を覗かせた。

『どうした近藤さん。何かあったのか?』

ちらりと枕元に置いた腕時計に目をやれば、すでに0時を回っている。こんな深夜に、なにか非常事態が起きたのか?と土方は咄嗟に考えて、眉間に皺を寄せた。

だがそんな読みとは裏腹に、近藤は心なしか涙目で、土方にすがるような視線を送っている。

『寝ていい?』
『…は?』
『一緒に寝ていい?』

土方は一瞬意味が飲み込めずに、ポカンと口を開けた。
しかし、すぐに意味は脳にまで到達して、土方は再び声を上げた。

『…あ゙ぁっ?!』

どうやら近藤は、つい先程まで開かれていた仲間内での怪談話大会に参加して、いざ寝ようと布団に入ったはいいが、後になって思い出して怖くなって眠れなくなってしまったらしい。

『あんたなぁ…いくつだよ。三十路近いオッサンが、怪談話の一つや二つで…』
『いや、トシ。三つだ』
『んなことはどうでもいいんだよっっ』

土方は呆れて、大きな大きな溜め息を吐いた。

『なぁ、頼むよぉ。想像してみ?夜中目覚めて、いきなりざんばら髪の女が乗っかってたりなんてしたら怖ぇだろっ』
『あんた、女大好きだからいいじゃん』
『好きだけどぉっ、首絞められて、『一緒に死んでください…』なんて言われたらどうすりゃいいのっ!』

近藤は頭を抱えて悶絶した。

そうか、今日の怪談話はそんな内容か…と土方はぼんやりと思っていた。

『なぁっ、頼むよトシィっ』

近藤が首にしがみつき、ゆさゆさと土方の体を揺らした。
まさに、うざいことこの上ない。土方のこめかみの青筋がピクピクと動く。

『…あ〜っ、もう、分かったよっ。好きにしろよ!』

土方が観念して叫ぶと、近藤の目がキラリと光輝いた。まるで仏様を拝むかのようだ。

土方はもう一度、はぁ〜…と溜め息を吐いた。


     *


『ったく…何で狭い布団で、男とくっついて寝なきゃいけねぇんだ…』

ただでさえ狭い布団に、でかい図体の男が余分にいるのだ。
布団の半分以上を占領されて、もはや土方の左半身は僅かに布団からはみ出ている。

すっかり目が冴えてしまった土方がぶつぶつと文句を垂れる横では、安眠を獲得した近藤が、気持ち良さそうにいびきを掻いている。

もう少し端っこに寄せようと、腕で近藤の体を押すが、図体だけはデカイ体はびくともしない。

『………』

尊敬はしている。信頼もしている。おまけに一応、大将だ。
だがあまりに気持ち良さそうな寝顔を見ていると、無性にぶん殴りたくなってくるのは何故か。

『…くそ』

もう、寝るしかねぇっ。近藤に背中を向けるように寝返りを打った。
ひたすら眠ることに集中する。

羊が一匹…羊が二匹…てか、なんで羊なんだ?ヤギじゃダメなのか?

眉間に皺を寄せて、寝ようと努力していた土方の背中に、ふいに温かいものがへばりついてきた。

『…?』

首だけを捻って後ろを見ると、近藤が抱き枕のように土方の体に腕を回してしがみついていた。

『ちょっ…マジかよっ』

近藤の筋肉質な感触が肌に伝わってくる。
首筋にはチクチクと顎髭が当たり、足元も脛毛がジャリジャリと当たっている。
半端ない気色悪さだ。

何とかほどこうとするが、もがけばもがくほど、近藤の怪力は土方を締め付ける。どこかの骨が軋んだ音が聞こえた気がした。

(俺を締め殺す気か!!)
土方が心の中で叫ぶ。

『お妙さぁん…むにゃむにゃ…』

近藤が寝言を呟く。

(俺はお妙じゃねぇ〜っっ!)
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