†【近藤+etc】

□上司に恵まれなかったらまずは電話。
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ーー魔が差した。

というにはまるで必然のように、この瞬間をずっと待ちわびていたような、そんな感覚を覚えた。

恐怖の表情を張り付かせた、まるで鬼を見るような目を向けた彼女の口を塞ぐ。似合わない女の醜い悲鳴など聞きたくもない。

不思議となんの感慨も躊躇もなかった。

吸い込まれるように振り下ろした刃が彼女の肉を裂けば、まるで花開くように真っ赤な血飛沫が飛び散る。
近藤は血を浴びながら、うっすらと恍惚の笑みを浮かべた。

崩れ落ちる妙の身体を抱き止めれば、初めて触れる彼女の温もりがそこにはあった。
あれほど常に自分を鋭い視線で睨み付けていた美しい少女の顔は、寝顔にすら思える穏やかな死に顔を映している。

鋤いた艶やかな黒髪も、やがて体温を失くし朽ち果ててゆくであろう骸も、今は自分の腕の中にある。

『…もう、俺だけのものですね』

口汚く罵る言葉なんていらない。
薄汚いものを見る軽蔑じみた目もいらない。

この抱き締めている身体さえあれば、もういい。

指先を伝い流れ落ちる血を舐めれば、鉄の味が舌に広がった。彼女の中に流れていた血。

『ねぇ、お妙さん…これで俺と貴方はひとつになれたのかな…』

答えることのない妙の骸を抱き締めて、近藤の頬を涙が流れ落ちた。












『…てね、夢を見たの』

青ざめて、土方と向き合った近藤は畳に突っ伏してしくしくと泣いている。
土方はピクリとこめかみに青筋を立てた。

『………で?』
『俺切腹するぅぅぅぅ!!』

突如起き上がった近藤は、突如腰の刀を抜いて、自分の腹に突き立てようとした。

『うわぁーっっ何してんだ近藤さん!!!』

ギョッとして土方が止めにかかる。

『止めてくれるなトシ!お妙さんを手にかけておいて生きちゃおれねェ!!!』
『はぁっ!?夢だろ、夢っ!!』
『夢の中のことは自分の願望だったりするって言うじゃんっ、俺ってばきっとそういう隠された願望がきっとあったんだよぉっ』
『いやいや、あんたはあの女に殺られるようなことはあっても殺るようなことはないから安心しろってェェッ!』

渾身の力で何とか近藤から刀を奪い取った土方は、勢い余って転倒して思い切り柱に頭をぶつけた。
そのとき、プルルル…と着信音が鳴った。
近藤ははっとして上着の内ポケットから携帯電話を取り出す。

『はい、もしも…え、お、お、お妙さん!!?』

近藤の声が一気に裏返る。

『え?アイスがないから買ってこい?はい、わかりましたァ!!この近藤勲、今すぐ超特急で持って行きまーーす!!!』
『あ?』
『トシ悪いっ、ちょっと出かけてくんな』

電話を切るなり、近藤は言い部屋を猛ダッシュで飛び出し走っていってしまった。

『…なんなんだ、一体』

呆然とし、柱にぶつけた頭がジンジンと痛み始めていた。多分大きなコブが出来てるだろう。



『…転職するかな…』




【完】

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