†【近藤×お妙】
□遅咲きの恋
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桜満開の春、真っ盛り。
数週間前にダメで元々、近藤は妙を花見に誘った。
これまで散々デートに誘ってはすべて見事に撃沈してきた近藤が潔く、『やっぱりダメですよねぇ』と早々と退散しようとした時だった。
『別にいいですけど』
近藤が頼んでもいない高級酒を勝手にボーイに注文しながら、妙は『今度の日曜日なら空いてますから』とさらりと付け足して、ニコリと笑った。
『え…嘘。ま…マジにですか?』
近藤は自分の耳を疑った。思わず声が上擦る。
『マジです。あ、でも日曜日が無理なら無かったことに…』
『いやいやいやいやっ、全然無理じゃないです!むしろ良いです!てか、日曜日じゃなきゃダメです!日曜日大好き!』
身を乗りだし興奮さながらに近藤が首をぶんぶん振ると、妙はその剣幕さに思わず、ぷっと吹き出した。
『あ、すいません…つい』
かぁっと頬を赤らめて近藤が、頭を掻く。
『ただし、ドンペリを入れてくれるのと交換条件ですからね。最近店長が売上売上ってうるさくて』
『や…お妙さん、言う前に頼んじゃってるし…』
一体いつの間に頼んだのか、すでにテーブルの上にはドンペリのボトルが大量に置かれている。
近藤は、やがて消え去るであろう財布の中身を想像して青ざめながらも、もはや頭の中は花見デートのことでいっぱいだった。
これは一世一代のチャンスだ。
少し前に若い隊士に教えて貰った穴場の花見スポット。
満開の桜の木の下、風に吹かれ散る花びらが舞う中、恋人同士で手を繋ぎ歩く。
隊士いわく、もうラブラブゲージ急上昇らしい。
(俺とお妙さんはまだ恋人じゃないけど、桜効果でラブラブゲージ急上昇だもんね!!)
と、もはや期待に胸躍る。いや、本当に踊りそうだ。
店を後にし屯所に帰るなり、むっさい顔で渋る土方を拝み倒してシフトを無理っくりに変更して貰い、なんとか約束の日曜日を非番にした。当然、散々嫌みを言われたが。
代わりに、本庁での会議やら接待やら、見廻り組との合同訓練やらが集結した多忙期を無休で過ごさねばならなくなったが、ここは辛抱。
ついでに、自室の机に山積みにされた書類整理もあるが、寝ずにやればなんとかなるだろう。
これならどんな女もメロメロ!と問屋のオヤジに薦められた着物も新調し、ついでに勝負下着もバッチシだ(念の為。ほんとに念の為。いや、ほんとに念の為)。
もうこれで後は、妙との親密さを深めるだけ。
『この近藤勲、お妙さんのハートを必ずやゲットしてみせますっ!!!』
月に向かってガッツポーズをかまして夜の屯所に響き渡った近藤の愛の雄叫びに、寝入っていた隊士らから総非難を食らったが屁でもない。
『あ、美容室にも行っとこうかな』
既に浮かれ気分の近藤だったが、今まさに重大な危機が己に迫っていることを、まだ知らない。