Poem

□卒業。
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何度も、何度も。


笑いあったり、喧嘩したり、喜んだり、泣いたりした。

振り返れば、それは本当に下らない事ばかり。
中身の薄い物ばかり。


でも、何故だろう。

あたしはこの思いや過去を忘れたくないと、今思っている。

皆と、一緒にいたいと思っている。



卒業したくないと、思っている。







この三年間の足跡を振り返った。

校長の長い話を聞くのは最後だけど、思いに深けたい。






グチャグチャになった足跡。

ある所で集まっていたり、走ったような乱暴な形になっていたり。

汚くて、よく分からない。







その、一つ一つを見て思い出すのは






友達と楽しく話した、教室。

精一杯頑張った、部活。

大声で笑いあった、廊下。

汗を流した、体育館。

時間が流れるのを忘れた、文化祭。

少し寂しげな、美術室。

学校全体が見えた、屋上。

声が枯れるまで応援した、体育祭。

音痴なメロディーの響いた、音楽室。

見渡せば結構広い、校庭。

面白い物がたくさんあった、理科室。

始まるまでにすごく抵抗のある、プール。

漏れる木漏れ日が好きだった、中庭。

結構皆で溜まった、職員室。

ちょっとだけ特別な気がした、放課後。

語り尽くしてもまだ足りなかった、修学旅行。







全部が全部、大切で。


頭の中を膨大な量の景色、思いが駆け巡る。

痛む、胸。


そのせいか、目から涙がこぼれた。




皆に見られたら恥ずかしくて、手でふき取った。

でも、隣の子も泣いていた。




ああ、これでいいのかな。

何も思い残すことはないのかな。

全部、やり遂げられたのかな。

精一杯できたのかな。

後悔してはいないけど、何かが残るこの胸の中。



悲しい訳でもなく、嬉しい訳でもなく、はたまた不安でもない感情。

この感情の名前は何なんだろうか。



昨日、先生が最後に教室で挨拶をした。






「皆の担任で良かったです。ありがとうございました」



閉じた口が、震えていた。
泣いてはいないけど、泣いていた。


それを見たら、どうしてだか私まで泣けてきた。
一番前の席の子も泣いていた。



ありがとう。



有り触れている、言葉。
こんなに重みがあるなんて知らなかった。
こんなに自分が涙もろいなんて知らなかった。



卒業証書。

先生に名前を呼んでもらえるのは最後。


そう思ったら、予想以上に声が出て。




卒業歌。


あんなに練習したのに、涙と嗚咽が溢れて。

まったく歌えなくて。




「う、・・・・ぅ、くぁ、・・・・・うぇ、っく」



こんなに泣いたの、いつ振りだろう。

こんな気持ちになったのは、初めてだろうか。



頬が、睫毛が、顔が、ビショビショになって。

ハンカチで拭っても、拭っても溢れてきて。

目がどんどん重くなって。




退場。


ほとんど交流のない後輩だってたくさんいる。

目があると、嬉しいような寂しいような。



もう本当に終わりなんだなと思って、どうしようもなく切なくなった。





教室。


色んな事があったね。

たくさん皆と話したね。



入った途端、一気に安心して。

友達の胸に飛び込んで。

これで最後だ。


そう呟く間もないくらい、必死になった。





写真を取って、家に向かう。

終わった。



あたしの中学校生活。


見慣れた家並み。
それさえ、もう高校の通学路にならないんだな。


目に焼きつけたくて、シャッターを切った。













ありがとう。

こんな風に泣くなんて、一か月前は予想もしてなかった。



ありがとう。

最初にこの校舎をまたいだ時は、こんなに大切なものがたくさんできるなんて思わなかった。



ありがとう。

皆と出会えて、笑いあえて、本当に良かった。
離れたくない。



ありがとう。

ボロボロだけど、この学校は。
あたしの誇りです。











最後に。



色々合った三年間。

悪い事も、良い事も。


今は全部嬉しい。
全部大切。




ありがとう。




泣き腫らした目を擦って、過去を後にし前に向き直った。














終わった。

卒業式。



誰もいない教室に入る。

ずっと、あたしが座っていた席に座る。



見渡すと、誰もいない。



なのに、何故だろう。
耳に自然に入ってくる、笑い声。


胸が、痛くて、熱くて。



でも、不思議。



涙は出なかった。

黒板に近寄り、白いチョークを手に取った。



汚れた黒板。

最後なのに、寄せ書きも何もない。




コツ コツ




書いて、すぐに消した。






出る前に、一瞬振り返っていった。

もう、振り返らない。


今度、振り返る時。



あたしは二十歳。





実は、卒業式終わった後黒板にこう書いたんだって笑えるようになる頃。












































「―――――ありがとう」

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