Poem

□仮面と池。
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今日も教室に足を踏み入れる。



おはよう、と言えばたくさんの笑顔がおはようと返してくれる。

自分の席に座って机に鞄を置く。



フードを深く被り、耳を隠す。


目を、閉じる。






左側から聞こえたのは男子の声。

昨日やってたお笑いの特番の話をしているようだ。

話している本人が馬鹿笑いしていて意味不明になっている。



前から聞こえてくるのは女子の声。

彼氏の愚痴を友達に聞いてもらってるらしい。

でも聞いているほうの子達はつまらなそうに相槌をうっている。



右側からは聞いたことのない曲が聞こえる。

多分誰かが聞いているのだろう、ヘッドホンの音を最大にして。

鼻歌まで聞こえてくる始末だ。






ゆっくり、閉じられた目を開ける。




左側にはお笑いの話をしている男子。

前の方には彼氏の愚痴を吐く女子。

右側には本を読みながら音楽を聴く男子。




フードを、掴む。








皆、何故笑っているのだろうか。

いや、笑ってない。







皆の顔を見渡す。








あれは、真っ白な狐の顔のお面だ。

笑っている、狐のお面。




全員が顔を隠し、自分と相手にレッテルを貼って塗ってお面はもうボロボロ。





気づかないのか、何かおかしい。









笑い声の響く、教室。









あの仮面は、何なんだろうか。


もしかして、付けている事に気づいていない?




そんなはずない。

今あそこにいる男子が被り直した。






おかしい。

このクラスはおかしい。






あの仮面が見えるのはあたしだけなのか。

何故、あたしには付いていないのだろうか。





また、フードを深く被る。

そして、また目を瞑る。



深い、深い、深海に沈むような感覚に襲われた。















そこにいたのは、少年だった。

誰かに良く似た少年。



暗い暗い深海の底で体育座りをしている。

月明かりに照らされた少年は人間とはかけ離れた神様のような幻想的な存在に見えた。


少年の隣りに座ると、少年が顔を上げ僕を見る。


その顔には仮面は付いていなかった。













「ねぇ、何でそんな物被ってるの」






そんな物とはフードの事だろうか










「必要だからだよ」







「何で必要なの」






「仮面が、僕にはないから」






「僕もないよ」





「何でないの」






「必要ないからだよ」





「そんなはずない」





「何で」





「必要ないなら、何で皆付けてるの。何で、笑ってるの」





「違うよ」






「何が違うの」







「仮面なんて皆付けてないよ」





「嘘だ。皆付けてる。レッテルもたくさん貼られてる。嘘と偽しかない、それしかない」





「何で君は付けないの」






「僕は皆と違って弱いから。仮面を付けたって笑えない。涙で濡れてくしょぐしょになるから」





「本当にそう思ってるの」





「だって、それ以外の何者でもないもの」





「君は、怖いんだ」




「何が」




「仮面の裏を見るのが」




「裏なんて、ない」





「全て嘘だって思えば済むと思ってるんでしょう。それは、逃げてるだけ」






「やめ、て」






「本当の皆を見るのが怖いだけ。本当の自分を見せるのが怖いだけ」






「い、いやだ」






「耳を塞がないで。逃げないで。もうこれ以上池は深くないんだよ」





「此処は・・・・・・・・・・・」





「海じゃないよ。小さな、ちっぽけな君が作り出した池」





「い、け」





「逃げ込むために作った池。瞼を閉じればすぐ行ける幻想と夢の狭間の世界」





「夢、なんだ」






「現実だよ。君が、皆の事知るのが怖いんだ。だからいつもそんなに深くフードを被っている」





「被らなければ、全て分かるのかい」





「いいの?今まで逃げてきた物全てに衝突するよ」





「仮面を剥がしたら、どうなるの」






「嘘も本当も何もかも見える。けど、もう怖くはないと思う」






「本当?」





「うん、ほら」













少年は仮面のない顔で笑った。綺麗だった。


出された手を掴み、ゆっくりと目を閉じる。







そして、ゆっくりと目を開けた。




















そこには、いつもの教室があった。

笑い声の響く、嘘とレッテルだらけの教室。




だた一つ違うのは、








フードをまた深く被り、耳を隠す。











皆の笑顔がちゃんと見えたことだ。




まだフードは取れないけど、

嘘と偽善にまみれたこの教室には恐怖を少しだけ感じるけど、









皆の顔は、仮面じゃなかった。







もう、あの少年に会う事はないだろう。

そして、もうあの池に逃げ込むこともないと思う。










いや、思いたい。

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