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9/11しやがれ翔くん





最近俺は鉛筆とか色鉛筆を握って、それを新聞の広告の裏へと滑らせている。
前まではこの苦手分野に足を踏み入れることはしなかったけど、もうそろそろ練習しとかなきゃな、なんてね。
回りからは無謀だなんて言われてるけど、まだ見ぬあの子のことを思い浮かべると、不思議と頑張れる。

それに、ちょっとずつ上達してきてんじゃないかな…



俺の画力。










「翔ー」


「んー?」


「さっきから何やってるの?」


「絵の勉強ー」





え゛、ソファーでくつろいでいた彼女の手から雑誌が音を立てて落ちた。

元から大きな目は更に開かれて、完全に一時停止状態。



…何だよ、そのリアクション。





「な、なんで急にそんなこと…」


「べつに急じゃないよ。ちょっと前から練習してたんだから」


「だからってなんで…」



ソファーから立ち上がって、ゆっくりした動作で俺の隣に来た。

俺の目は前よりもちょっと大きくなったお腹へ。

動く度にそわそわする俺は心配性だろうか。





「…なに、これ」



絵を指さして一言。





「これは…鶴、ですね」


「つる…なんだ」



体が微妙にヒクヒクしている。

そんな面白いかな?この絵…





「だって、ペリカンみたいだよそれ」


「ペ、ペリカン!?」


「だってツルのくせに太いんだもん。もっとスマートじゃないの?」


「すまーと…」



何度も練習したはずなのに早速ダメ出しを喰らってしまった。あぁ…

なんでかなあと凹みながら、智くんがくれた一枚の紙を取り出す。

そこには鉛筆描きされた一羽のツル。
それは今にも動き出しそうだ。



「わっ、その絵大野さん?」


「そう、上手いよなー…」


「さすが芸術家って感じよね。…で?」


「…で?」



軽ーく智くんの鶴くだりは流され、再び視線は絵に戻った。



「なんで鶴の絵なんか描いてるのよ?」


「あれ、わかんない?」


「…わかんないー」


「智くんはすぐ気付いてたみたいだったけどな」



丁寧なタッチの鉛筆画をひらひらさせた。

小首をかしげる彼女から少し目を下にやると、命の入った大きなお腹が。



ここから、もうすぐ。

そう思うと、やっぱ男からしてみたら居ても立ってもいられないわけで。







“俺的にやっぱ童話は鶴の恩返しなんだよね”







そう言うと、頬を赤らめながらも理解してくれたみたいだった。



あー、早く生まれてきてくれねーかな!





お腹に耳を近づけると、小さく音が聞こえた気がした。








End☆







――――――――――――





これはひとりさんの、お子さんに絵本を描いてあげてるやつですね
重たいうさぎとカメです(笑)
それを翔くんは真似したかったわけで…

智くんの絵は収録後に描いて〜、って言ったらそれとなく察してくれたという裏設定が。
補足しないとわからないけど…(涙

電車の風景のヤツと迷いましたが…
せっかくなのでお絵かきネタをいただきました!



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僕がプレゼントだよ☆



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