怪獣書堂

□地球最大の決戦-sin-
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 同時刻、横須賀に矢口蘭堂巨大不明生物災害復興兼同産業復興特命担当大臣は苛立ちを隠しきれずにいた。
 米軍基地内の執務室へ通されてまもなく先の報せを聞き、そのまま今に至る。
 そして間もなくノックもなく部屋へと入ってきた在日大使こと、カヨコ・パタースンは入口で人払いをし、彼の前のソファーに腰を下ろした。共にテーブルに置いた資料の山を見て矢口は彼女から必要とする情報を提供する意思を感じとり、一先ずの苛立ちを抑え込んだ。

「先に伝えておくわ、矢口。これはターニングポイントよ。この先の判断であなたの国の立場は大きく変化する」
「我が国と貴国との関係の間違いではないか?」
「そう言う捉え方もできるわね。でももっと端的な言い方ならば、私の立場とあなたとの関係といえるわ」
「……なるほど。つまり、この件は大使の、いや貴国の保守派と異なる意向が働いたと」
「随分ストレートな言い方をするわね。……そうよ。今回の核兵器使用は大統領の判断。つまり、ゴジラへの核使用を支持した勢力の意向で、私達保守派は完全に無視したものよ」
「君の復権はますます難しい状況という訳だな」
「……あなたの個人的な苛立ちを私にぶつけてもらっては困るわ。まぁ私としても同意件なのだけど」

 カヨコは嘆息し、話を戻す。矢口も自重し、背筋を正す。

「まずはこの資料よ。ネバダの施設で行われていた研究の検体が今回のゴジラ亜種になるわ」
「秘匿はなしか」
「秘匿できない状況になったから本国はゴジラ亜種の駆逐であると公表したのよ」
「リークか。ソースは?」
「それは私の口から明かせないわ」
「わかった」

 そして矢口は流し読みでその資料を確認した。
 どうやらネバダの廃放射性物質の研究施設内で極秘裏にゴジラの細胞を用いた実験を行っていたらしい。ヤシオリ作戦の際にゴジラの細胞膜内の共生細菌による物質の分解機構が世界に流出した損失を取り戻すために、生命倫理にも抵触しかねない実験も行っていたらしい。
 そして今回のゴジラ亜種は鳥類の卵に移植したゴジラの細菌が元で生まれたものという、先進国のしかも米国としては実にお粗末な内容であった。これは間違いなく国際社会から米国は糾弾される事実だろう。

「このラドンというのが、その亜種の固有名か?」
「そうよ。情報がまだ整理されていないから詳細はわからないけれど、鳥類型の巨大生物となっていたらしいわ。でもどうやら小型の個体の群集したものと現地からの目撃情報はきている」
「核で駆逐できたのは事実なのか?」
「目下調査中。でも、そうでなければ来週くらいに世界は滅亡よ」
「そうだな。それは希望的な見解だが、それを前提にしなければ議論も儘ならない」
「そういうこと。幸いにも今時点の国内世論は大統領に対して否定的よ」
「つまり、君の復権も希望的と」

 矢口の言葉にカヨコは苦笑した。
 カヨコは現在在日大使。つまり本国の政界から日本へ追放された立場にある飾りの人形だ。日本での核使用に反対した人物として日本国民の好感度の高い彼女だが、同時に主流派の意向に反った行動をした代償が今の地位ということだ。
 幸い以後ラドンは確認されず、矢口とカヨコの希望的な願望は叶うこととなった。
 核使用に対する評価は米国内外でも真っ二つに分かれ、以後国連の場で幾度となく争点となることになる。同時に凍結したゴジラを有する日本の取り合いに対しても二転三転し、泉を筆頭とする閣僚達は胃の痛む日々を過ごすことになった。
 そんなゴジラをめぐる国際社会の政治論争が終息しないまま年を越すことになる。
 そして翌令和2年冬、観測史上最高の暖冬の中、日本は、そして世界は更なる脅威に直面することになる。
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