異世界転生した主人公が○○○だった件〜流行りに乗っかった擬人化モノを書いてみた〜

□序章 その2
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 ここは、剣と魔法の世界にある巨大大陸の大部分を支配する帝国西部の山岳地帯。現在帝国は、東に敵対国家、北に魔王率いる魔族の軍団との戦争をしており、内部でも革命を志す者達による紛争の火種を燻らせていた。南部の諸島連合とは表面上良好であるが、それも帝国支配の及びきらない獣人などの亜人が暮らす緩衝地域を有していることが大きい。
 しかしながら、その緩衝地域も隔離、迫害といえる長らく続いている帝国支配の歴史の遺物であり、革命の火種がその地で燻るのは当然の理であった。
 そんな革命に燃えるバランやシーサー達と別れた俺は今、村を目指して夜道を歩いていた。山間の道の先に、村らしき火の灯りが見えてきた。まもなく到着するだろう。

「ちょいと待ちな!」

 茂みの中から刺のある鉄球がついた戦鎚というのだろうか、鉄の長い棒を両手に持ち、その先端に大きな刺鉄球が付いている。それを構える全身も金属の刺が無数に付いた鉄鎧を身に纏った男が俺の前に現れた。
 その重装にも驚いたものの、その男がシーサー達獣人とも異なる種の亜人ということにも驚いた。
 鱗や顔つきはまさに爬虫類だ。

「何者だ? 魔物か?」
「失礼なヤツだな! リザードマンを相手に魔物だと!」

 怒らせた。
 リザードマンという種の亜人らしい。重装のリザードマンは荒い口調のまま俺に言う。

「金と装備を置いていけば命だけは見逃してやるつもりだったが、今の暴言で気分がかわった! 殺して金と装備を奪う!」

 つまり、戦えということだ。
 丁度良かった。俺としても、バラン達から貰った装備の使い勝手に慣れておきたかったところであり、尚且つ詠唱魔法の練習もしたかった。
 俺は荷物を地面に置き、剣を構えた。

「面白れぇ! 俺様とやろうってのか! 泣いて謝れば命だけは助けてやろうと思ったが、仕方ない! 精々己の軽率さを後悔するんだな!」

 二度も命は見逃すつもりだったらしい。意外と良いやつなのかもしれない。
 リザードマンが襲いかかってきた。見かけ以上に素早い。俺は剣を構えたまま距離を取る。

「避けるんじゃねえ!」

 リザードマンは戦鎚を横に振る。当たる距離ではないと見たが、先端の刺鉄球は外れて俺の剣に当たった。
 剣が弾かれる。見ると、棒から伸びる鎖で鉄球が繋がっていた。

「口ほどにないな。興が覚めるぜ」

 剣を失った俺は、代わりになる武器を考えるが、今手元には何もない。あるのは、己の拳のみ。
 仕方ない。と、俺は試してみたかったことを実践してみることにした。

「 風の神よ。我が名の元に、願いを叶えよ。我が剣に力を与えよ」
「詠唱か? 面白い! こいつを喰らいなっ!」

 リザードマンは再び刺鉄球を放った。
 同時に俺も拳を振りながら、叫んだ。

「エアカッタァァァーッ!」

 刹那、予想通り俺の拳の起こした風が増幅され、リザードマンを鉄球もろとも吹き飛ばした。
 拳では勢いが弱かったのか、それともリザードマンの装備と体が頑丈だったからか、ギャオスの時のように体が千切れることはなかった。それに、拳を伸ばした様に真っ直ぐ風が突くように放てるかと期待していたのだが、実際は期待に反して拳と腕の描いた軌道と同じ弧を描く風になっていた。
 バランの使い方が本来のエアカッターの使い方であるなら、俺のやり方は全くの邪道といえ、失敗したからといって驚くことでもなかった。実戦では使わなければいいのだ。むしろ、リザードマンは仰向けに倒れて泡を吐きながら咳き込んでいるが死んでいない。
 つまり、殺さない戦いをするには丁度良いということだ。

「いい練習相手になった。では」

 俺はリザードマンに礼をし、荷物を持って村へ歩き始めるが、後ろから呻き声混じりの声に呼び止められた。

「待ってくだせぇ! 旦那! いや、兄貴と呼ばせてくだせぇ! このアンギラス、時に盗賊稼業、時に傭兵稼業をし、暴龍と二つ名で呼ばれるようになって久しく、腕にもそこそこ自信を持っておりやしたが、兄貴には及びません! せめて、お名前だけでも教えてください!」
「……暴龍?」

 どうやらこのリザードマンとはもう少し縁が続くらしい。




「いやはやハリネズミがこの近くで最期を迎えていたとは……。兄貴、あいつを看取って頂いてありがとうございます!」

 村の宿屋にある酒場の机にアンギラスは頭を擦り付けている。俺の目の前で。
 他の客や主人達も俺達に視線を向けている。無理もない。強者弱者で見れば、体格差が真逆だ。
 俺は嘆息しつつも、共に縁のあったハリネズミを弔う酒を交わすことにした。

「何、記憶がないですと?」
「そうだ。衣服に書かれていた名前からセリザワと名乗っているが、本当に俺の名前かもわからないし、真名も覚えていない」
「真名を知らないのにあれほどの魔法が使えるとは恐れ入った! ……よし、決めた! ハリネズミの恩人に知らぬとはいえ命を奪おうとしたんだ。これは行動で返さなければならない」
「どういうことだ?」

 俺の問いかけに、アンギラスは再び頭を机に擦り付けた。酒が回って勢いがついていた為、机が割れそうな勢いで頭を机に打ち付ける。
 店主がぎょっとした顔でこちらを見た。俺は苦笑まじりに店主に会釈した。

「兄貴についていきやすぅ〜」

 寝た。
 どうやら俺は自信よりも体の大きい弟分ができたらしい。
 俺は小さく嘆息し、店主を呼んだ。
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