文
□お家へ帰ろう。
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乗り合わせに幸福
【お家へ帰ろう。】
部活帰りのクタクタな身体は、バスの揺れにウトウトしっぱなしだった。
『ヤバい、寝過ごしそぅ…』
自分の降りるバス停が終点ならなぁ、なんていつも思う。それぐらい眠くて、それぐらいバス停は半端なトコにある。
大きな駅に着いたバスはしばし止まる。そこからは人が山盛り乗って来るから、自分の横に置いてるデカいカバンを足元に移動する時でもある。
今日隣に座ったのは、中年のサラリーマンだった。
部活帰りの汗臭い身体の横に、キレイなお姉さんが座らなくて良かったーと思う反面、俺の眼はサラリーマンの手に持ったあるものに釘付けだった。
『ケーキだ…』
眠気を覚ます様な、特有の甘い匂い。特別な日にしか食べられないそれは、俺の好奇心を大いにくすぐった。
『ウチの人に頼まれたのかな…?にしては箱が小さくね?えっ、まさか自分が食べる用とか?』
窓の外を眺めながら、色々な想像を巡らせる。眠気なんてとうに忘れていた。
俺よりも先に降りたサラリーマンは、なんだか幸せそうだった。
「今帰り?」
バスから降りると、犬の散歩をしてた幼馴染みに出会った。
「ジョーン!」
力一杯毛むくじゃらを撫でると、舌と長い耳をびろびろさせて喜ぶ。部活帰りの俺には、竹谷んチのジョンが癒される生き物一位だ。
「あぁー!ケーキ食いてぇー!」
ジョンを抱き締めながら叫んだ。幼馴染みの顔なんて見て見ぬフリ。
会話なんて楽しめない。今は欲に忠実でいたいから。
終