□不幸中の幸い
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昔ドラマで見た、公共の場所で酷いことをした男が女に水を掛けられるシーン。
ドラマでは立ち去った女の方に画面が移るから、男が結局どうなったか分からない。

今の俺の状況が正にそれだ。

【不幸中の幸い】

ワイルドで、煙草を吸う姿が好き。
そう近寄ってきた女は、なかなかの美人だった。

相手は付き合ってると思ってる。俺はよく会う程度と思ってる。そんな時期だった。
女がこれからの話を持ち掛けたから、俺がゲイだとあっさり告白すると、
『サイテー!この嘘つき!』
と、水をぶっかけられたのが数分前。

「……」
洒落たカフェで一人になった俺は、革張りのソファに座り周囲の注目を集めていた。
全く、女の気持ちはとんと分からないものだ。


「大丈夫ですか?」
タオルを持った店員が駆け寄る。カウンターのすぐ前のテーブルで、申し訳ない事態を起こしたものである。
「ありがと、ごめんねホント」
店員からタオルを受け取り、顔や服を拭いた。いくら夏とは言え、冷房の効いた室内での水浴びは困ったものである。

「申し訳御座居ません、」
なぜだか真摯に店員が謝ってくるので、なんだかおかしかった。
店員も大変だ。そうちらと顔を見ると、困った表情で濡れた机を拭いていた。好みの顔だった。

彼が立ち去る前に急いでスケジュール帳のメモ欄に名前と携帯番号を書き、その一枚を彼のベストのポケットに入れた。

「良かったら電話して」

俺はタオルを机に置いて、早々に立ち去った。




近くの公園のベンチで一服する。そういえば煙草を吸う姿が好きと言っておきながら、女が選んだ席は禁煙席だった。やはり女は謎である。


突然電話が鳴る。知らない番号だった。


人生は色々ある。
だがこう上手く運ぶと、そう捨てたもんでもない。

「もしもし」




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