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□追憶のカレン補完SS
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シェラ生還の翌日、アイクラインはお祭り騒ぎだった。元来、男女共に人気のあるシェラである。休み時間の度に今まで話した事の無い人物までも群がり、シェラの生還を喜んでいた。勿論、それは一日経った寮でも同じ事で。学校から帰った途端、他校に通う寮生達が集まってくる。シェラ自身も心配を掛けた自覚はあるので、時間の許す限りそれに付き合っていた。

ふと、シェラが眉を顰めて入口を見る。皆がその視線を追うと、二人組の少年が入ってくるところだった。高校生くらいだろうか。黒髪の少年と金髪の少年である。二人共、タイプは違うものの街に出れば十人中十人が振り返る程の美形だった。
「・・・レティシア、ヴァンツァー」
今まで共に暮らしてきて初めて聞くようなシェラの不機嫌な声に、寮生達は驚く。だが、シェラの隣にいたヴィッキーと珍入者はいつもの事の様に笑った。
「よ。あーあ、黒くなっちゃってまぁ。勿体ない」
「べつに、これくらいすぐに戻・・・ヴァンツァー?」
いつも通りニヤニヤと笑っているレティシアと対称的に、ヴァンツァーは何やら眉間の皺が二割り増ししている。シェラに応えずに手を伸ばしたヴァンツァーは、指をシェラの髪に絡めようとするが、短くなった髪では、それは叶わない。それを見たヴァンツァーは更に皺を深くした。
「・・・こんなの、すぐに伸びるぞ?」
ヴァンツァーがこの長い髪を気に入っていた事に思い至ったシェラは、もごもごと言い訳する様に呟く。
「ま、前に切った時は何も言わなかったじゃないか」
「あれは、俺の為に切ったんだろう」
「・・・誤解を招くような事を言うな!!」
やはり初めて聞くようなシェラの大声に驚く皆を、ヴィッキーとレティシアがちょいちょいと手招きする。
「食堂にでも行くぞ。シェラとは後でも話せるだろ?」
「でも、ほっといていいのか?」
未だに何やら口論をしている――シェラが一方的に怒鳴っているような気もするが――二人が心配らしい。
「大丈夫。いつもの痴話喧嘩だから」
「・・・痴話?」
あまりの形容に呆然とするジェームス達を置いて、ヴィッキー達はスタスタと歩いていく。慌ててそれを追っていくと、段々シェラの声の気配が変わっていくような気がした。
「?」
「ジェームス。振り向くなよ」
「そうそ。無粋だぜ?」
「何だよ、ソレ」
ヴィッキー達の言う事の意味は分からなかったが、ジェームスはそのまま食堂へと向かった。

「また伸ばすから・・・」
未だに渋い顔で髪を撫でるヴァンツァーに、シェラは宥めるように言った。
「それとも、髪の短い私じゃ嫌か?」
「まさか。ただ、勝手に切られたのが気に入らないだけだ」
「・・・すまない」
シュンとうなだれるシェラの額に、ヴァンツァーは口付けを落とした。
「お帰り」
「・・・ただいま」

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