BatCat
□蝙蝠も腕の誤り(サンプル)
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ブルース・ウェインは、このところ悪夢に悩まされていた。
見る内容は決まって同じ。
両腕が何か、生白いものを掴んでいる。よく見れば、それは人の首の肉だ。ブルースは、それに段々と力を込めてゆく。
みしり、と首の骨が悲鳴を上げる音。
じわり、と肉の色が浸食されるように青白く。
ぎりぎり、と絞まってゆく感触に、上がる口角。
ふと影を感じて顔を上げると、自分を覗きこんで、ピエロが立っていた。
『いい顔をしてるじゃないか、バッツ』
頬まで裂けた笑顔で、道化は笑った。
掴んでいるものがふいにずしりと重くなった。
抵抗を感じなくなって目線を下せば、そこにいるのは、事切れたディーン・ウィンチェスターだ。
彼の首を握ったまま、ブルースは茫然とそれを見下ろす。見開かれた緑の瞳は、恐怖と苦悶に歪みながら、ブルースを映していた。
瞳の色がどんどん濁っていって、握る力を弱めたら、ずるり、と彼の体がくずおれてゆく。
そして道化が嗤うのだ。
『お前、今、口が裂ける程笑ってるぜ』
*
「あまり休めていないようね、蝙蝠さん」
ポイズン・アイビーは、バットマンに手を差し出した。その手のひらには一粒の種が乗っている。
見かけはヒマワリの種ほどの大きさだが、何の種かは見当がつかなかった。スーツのサーチ機能でも、いずれの植物とも該当せず、顔を向ける。
「『彼女』は最近見つけた『新しい子』。枕元で育てれば、きっとよく眠れるわ」
バットマンが受け取ろうとせずに猜疑心たっぷりの目で見てくるのに、彼女はムッとしたようだった。
「麻薬の類じゃないわ。それに私は、私の『子供達』に貴方が酷い事をしない限りは、貴方の敵というわけでもないのだから。それを覚えておいてね」
胸に押しつけられた種を見下ろし、バットマンがもう一度顔を上げた時には、もう彼女はどこかへ消えていて、ただ何かの花粉だけが空を舞っていた。