SPN
□Live well, Laugh often, Love much.(S/Dサンプル)
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『Drowning in love』
ロウィーナを怒らせてしまった。
気軽に彼女を頼りすぎたのだ。
「ねえ、坊や。この頃、ちょっと気安いわね」
赤毛をくるくると指先で弄びながら、彼女は言った。
「そう?」
「ええ、随分と」
「だけど僕ら、友達だ」
と、僕は返したが、ロウィーナは何故かとても驚いた顔で、よくカールさせた睫毛を震わせ、黙ってしまった。きっかり一分は見つめあった後、
「な、何をバカな事を、ちょっと! その顔やめて! その子犬みたいな顔、あたしには効かないんだからね!」
彼女は、ぷりぷりと怒って腕を組んだ。
「ゆ、友人にしても、便利に扱いすぎだわ」
「でも「立ってるものは兄貴でも使え」がウチの家訓なんだ」
「まー、よく回る口だこと! その口、もう少し思慮深くしてあげましょうか」
そう言うとロウィーナは長い指先を僕の口にあて、ピッと横へチャックでも閉めるように動かした。何か聞き取れない言葉をワンフレーズ囁いた後、
「言葉の重みを知りなさい。そして思い知るといいわよ、魔女を友人だなんて言うことの意味を」
ふん! と鼻を鳴らし、ヒールの音も高らかにバンカーから出て行った。僕は慌てて口を触ったり、体をあちこち検分したが、特に変わったところも痛いところも無く、首を傾げた。
時刻は正午を迎えようとしていた。
狩りの後始末で前日遅くまで起きていた兄がそろそろ目覚める頃だろう、と思った矢先、廊下の向こうから歩いてくるその姿。
おはよう、ディーン。僕はそう口に出したつもりだった。
しかし、口から出たのは言葉ではなく、ピンポン玉くらいのピンク色をしたハートだった。ぽんと口から出たそれを思わず手で受け止めた。
なにこれ。
呆然とする僕に気づいたディーンは、
「廊下のど真ん中で何してんだ。挨拶くらいしろよ。おそよう」
とか言いつつ、僕を押しのけて通り過ぎた。後をついて行き、キッチンで冷蔵庫をのぞく背に向かって、何度も声をかけようと試みた。
「買い出しに行かないと何もないよ」「寝癖ついてるよ」「その下着、昨日も履いてたやつだろ」「僕も何か食べたいな」その他いろいろ……。
そのどれもが発声の代わりにハートとなって口から出てきた。僕は大小様々なハートを両腕でなんとか抱えこみながらもうパニック。
言葉が喋れない! ロウィーナの仕業だ。
ディーンが憎らしげに冷蔵庫を閉めた音がした。
「なんもねえじゃん。仕方ねえな。昼飯がてら、買い出しに行く。支度するから待ってろ、二人とも」
そのまま、まだ眠そうに、あくびしながら洗面所へ歩いていった。
今、「二人」って言った?
振り返るとキャスがいて、僕の出したハートを不思議そうに見つめていた。