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□きみと、愛の果実を食べよう(サンプル)
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「秋は、何かを高めたり深めたりするのに最適らしい」
目が覚めた時、鼻と鼻の先で、キャスがそんな事を言った。
寝起きのぼんやりとした頭には当然、言葉は入ってこなくて、
「……何で添い寝してんの?」
ディーンはそんな事をもにゃもにゃと聞いた。キャスは頷き、彼の頬を撫でる。
「君を起こしに来たのだが、あまりに美しい寝顔だった為、起こすに起こせず、君が目覚めるのを待っていた。故意ではなく、ましてや本意などでは」
「言い訳がましい」
一言、そう告げるとディーンはキャスに背を向け、不埒な天使が謝罪するまで二度寝の体勢に入った。
「で、秋が何だって?」
床に正座して反省するキャスに、ようやく体を起こしてディーンが向き直ったのは数十分後。
「秋は何かをするのに良い季節だと言ったんだ。食べ物は美味しく、夜も長い。だから、二人で何かしないかと提案しに来たんだ」
ディーンはあくびをしながら、聞いた。
「つまり、デートのお誘いか?」
「端的に言えば、そうだ。豊穣の秋を君と過ごしたい。退屈させないように努力する。君は私に沢山甘えてくれて構わない」
ふーん、と殊更何でもなさそうに、
「そんな誘いで俺が頷くとでも? ……まだ、おはようのキスもしてくれてないのに?」
茶目っ気たっぷりに言ったら、それまで必死に説明していたキャスが、バッと顔を上げた。何だそのツラ、と笑ってやろうとした口はたちまち塞がれ、キスの嵐が顔中に降った。
「おはよう。おはよう、ディーン。おはよう」
「わーっ、やめろやめろ! 冗談だ!」
「そうはいかない、今日は君のワガママに何でも応えようと思っていたんだ。たっぷり甘やかすと決めた。準備も万全だ。まずは朝食を食べよう」
そう言うと、キャスはディーンを抱え上げ、言う。
「キッチンにつくまで、君に雨を降らせよう。また二度寝されては困るから」
バンカーに、ディーンの悲鳴が響き渡った。