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□比翼恋理のマイハニー~集団幻覚対象Nの並行世界No.61における記録~(サンプル)
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1.恋とはどんなものかしら


 昔から、地に足がついていない男と揶揄されて生きてきた。

飄々としていて、いつもへらへら笑っている。しかし、有事にはきっちり仕事をする男。頼りなさげに見えて、気づくといつも問題を解決している。隙があるように見えて、あまりつけこむ隙はない。

ジミー・ノヴァックはそういう男であった。

他人に言われずとも、本人も自分の生き方はかなりのあやふや加減だと自覚していた。
基本、ふわふわと流されるまま生きてきて数十年。気づくといつの間にか、一つの会社のCEOという座に収まっていた。およそ出世とは無縁の男であったので、今も現実が夢のように覚束ない。最近見る夢の方が、よほど現実みがあるくらいだ。

『うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと』だと、どこぞの作家が言ったというが、大いに同意である。

「なんていうのかなぁ、どこか他人事に感じちゃうんだよねえ。僕の人生」

 言いながら、ノヴァックは公園の木の上、ぼんやりと空を見ていた。

今日は会社のチャリティーイベントで、施設の子供たちと近くの公園でレモネードスタンドや少しの屋台を出していた。

用意していた風船が一つ、空を飛んでいき、木の枝の高いところに引っかかり、それを回収していた時、見上げた空があまりにものどかな空だったので、ふと我が身を顧みてしまった。

 現実感のない現実の中、木を降りようとした時、彼はその男を見た。

 公園のすぐそばの道を歩く男の背筋は、ぴんと伸びている。長い足が地を確かに踏んで進む。シンプルだが品質のいい、しわ一つないストライプのシャツにサスペンダー。上着を小脇に、空いている手でコーヒーチェーンのカップを持っている。

陽光に反射すると暗い金にも見える短髪はよく手入れされていて全体的に小ぎれいな男。その横顔は、雰囲気こそ全く違うものの、最近毎日と会う、夢の中の彼にうり二つで、

「えっ!」

 あまりに驚いて、枝を踏んでいた足を滑らせ、踏み抜いた。男が声に振り向く様が、コマ送りのように見えた。

こちらを見上げ、そこに人がいると思わなかった驚きに見開かれた緑の瞳。その瞳こそ、間違いようのないヘイゼルグリーン。

木から落ちながらも悟ってしまった。

彼こそが、己の運命だと。
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