SPN

□I see the light(S/D)
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その隣には彼より年上の男の子がいて、自分のランタンと泣いている子を交互に見て、何か悩んでいるようだった。

「泣くなよ、だいじょうぶ。穴くらいなんだ。ちゃんと飛ぶって」
「ダメだよ、これじゃすぐ落っこちちゃうよ」
「じゃあ新しいの、もらいに行くぞ」
「もうまにあわないよぉ」
「……じゃあ、おれのと一緒に、」
「兄ちゃんのはもうお願い書いちゃったじゃん!」

確かにランタンの配布場所からは少し距離があった。ディーンは腕時計を見て、アナウンスされている一斉点火時間が間もなくである事を確認した。軽く嘆息し、ランタンを掴んだディーンを、サムが手で制した。そして、子供達に寄っていくと、自分のランタンを男の子に手渡した。

「僕のあげるよ」
「いいの?」
「まだ書いてなかったからね」

お礼を言う兄弟とその両親に手を振って戻ってきたサムを、困ったような顔でディーンは見上げた。

「この、バカ。何であげちゃうんだよ。あれはお前のなのに」
「そっちがすぐ自分のをあげようとしてたから、先に手をうったんだよ。ほめてくれないの?」

サムは、黙ってしまった身体を持ち上げ、座った自分の足の間に抱え込んで、ん? と顔をうかがった。しかし、ディーンは唇をつきだした困り顔のまま固まっている。

「……お前の願いが叶うようにって、お願いするつもりだったのに」
「何だよそれ。ディーンの願いは?」
「叶えてほしい大それた願いなんて、ない。いつも、お前の願いが叶うようにって願うだけだ。俺は」

だから、と手に持ったランタンをよこしてきたディーンだったが、サムは彼のお腹に両腕をぐるりと廻したまま、受け取らなかった。

「だめ。それは兄貴のだ。たまには自分のお願いをして」
「そんなのないって言ってるだろ」
「僕はいいから」
「それが困るって言ってるんだ。いいから書けって、ほら」
「何か書けよ。あるだろ? 素直じゃない兄貴は……こうしてやる!」

長い指が、わきわきと蠢いたかと思うと、ディーンの腹や脇を一斉にくすぐりだした。

「んあ!?」
「くすぐりの刑だ! ほーら、こちょこちょこちょ」

逃げだそうとする足を腿で抑え、浮いた腰から脇へかけて、縦横無尽に指が小走りする。

「あははははははは!? バカこら、おま、ははは!」

なんとか逃げだそうとする腰を今度は後ろから押し倒し、服の中へ侵入した指は腹を一気に駆け上がった。周囲の視線に気づいたディーンは慌てて笑い声のあがる口を押さえた。それによってノーガードになった全身を、くまなくサムの指が撫であげ、絡み、くすぐって四方八方転がった。

「んっ、んむーっ!」

うにょうにょと蠢く触手のような指は、ディーンに逃げ場所を一つもくれなかった。がっちりと足で抑えられた身体は、空しくもサムの腕の中で足掻く。抑えられた口の隙間からは絶えず、悲鳴めいた笑い声……いや、もはや息も絶え絶えの嬌声じみた喘ぐ声が、必死に抑えながらも漏れ出ていた。

「はっ、はぁ、は……あっ、ひゃん! ひはっ、んっ、だめ……うんぅ、う〜っ」
「うわ。これ、僕もヤバいのでは」

うつぶせで抑えつけていた身体をひっくり返せば、

「は……はあ、ぁ」

赤みの差した目尻は涙に潤み、ぐちゃぐちゃになったシャツはめくれ、見え隠れするチャームポイントが上下に激しく浮いては沈んだ。くすぐる指先に、それは時々当たって、皮膚がすれ違うだけでもディーンの腰が跳ねる。

「はあ……あぅ」

息はとても荒く、内股になった太股が震えていた。まるで僕が乱暴したみたいだ、とサムはぼんやり思った。胸のすぐ下に、いつでも圧しつぶせそうな弱々しい兄の身体があった。いつも「強い男」で在ろうとする彼が、潤んだ瞳で身悶え、震えながら自分を見上げている。自分の顔色を伺い、許してくれと懇願すら瞳に浮かばせて。乱れたゴザから落ちかけの頬は、砂まじりの涙で汚れている。震える唇の合間から、つう、と唾液が流れた。それでもどうにもできず、顔を伏せ、落ちたよだれを啜る余裕すらなく、いやいやと頭を振った。その様はあまりに人を魅了する。誰もが、彼をどうにかしたくなるだろう。サムは思わず息を止めて観察した。最早、目が離せなかった。下半身には熱が集まりつつある。これはいけないと頭の端では思うのだが、自分の指が動くままに己の下で悶える肢体が、くねくねと身じろぎする様は、想定よりもいやらしくて、もっとこの兄を見ていたくて仕方ない。沸き上がるのは嗜虐的な思考だ。どうにも収まりがつかない。

「ひぐ、わかった……おねがい、するから、ぁ、」

はくはく、と必死に酸素を取り込みながら、途切れ途切れの小さな声が、震える腕を持ち上げ、やっとの事でサムの背をかき抱いた。ゆるして、ゆるしてと、熱く、切なげな囁きが、サムの耳に落とされた。殆ど呼気のその言葉は、サムの動きを止めようとしての必死の行動だったのだろうが、まるで逆効果だとサムは思った。今すぐその震える唇にかぶりつきたかった。獰猛に服を剥いでむさぼるように、上気するその肌を暴きたかった。が、ふと視線を感じて顔を上げたところ、周囲のゴザからかなりの目が乱れる兄に注がれていて、ここが衆人環視の野外である事を思い出した。瞬間、熱に浮かれた頭に、思いきり冷や水を浴びせられたかのようだった。うなじを、するりと兄の指先が撫でて、ぶるると身を震わせたサムは、弾かれたように身を離した。

「わ、かってくれたなら、いいよ!」

うなじを擦りながらサムは立ち上がり、

「〜〜っ! ごめんちょっとトイレ!」

できるだけ前屈みになって脱兎の如くその場を後にしたのだった。
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