SPN
□I see the light(S/D)
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身支度もそこそこに、インパラはハイウェイ95号線を南へ走った。遅めのランチを途中のダイナーで買った二人は、それを片手に道を進む。
陽光はまだ強く、運転手のサムはサングラスをかけた。エミグラントパス山が南東に見えてきた頃、ディーンは助手席の窓から上半身を乗りだし、乾いた風に目をつむる。
「おー、バグダッド・カフェ!」
遠く、地平線まで砂漠が広がっていた。もうすぐ、西と南の境には、サンバーナディーノ山脈、北へ進むとデスバレーが見えてくるはずだ。通常、ここで目視できるのは一面の砂の大地、遠くにそびえたつ山々のみ。しかし、向かう先には人だかりが見えていた。
「何日か前に、調べ物をしてたら気づいたんだよ」
窓の外に上半身を出している兄に聞こえるよう、サムが大きな声で言う。
「今回の狩りがうまいこといけば、モハーヴェ砂漠のイベントに参加できるかもしれないって」
「そろそろ教えろよ、これ何のイベント?」
砂漠のど真ん中に、出店が立ち並び、多くの人がうろうろしている。サムはシャツの胸ポケットからチケットを出し、
「ランタンフェスティバル」
サングラスの上からでも判るほど、破顔した。
誘導された場所にインパラを止め、二人は砂漠へ降り立った。砂漠には既に数百以上の人々が、思い思いに座っている。ディーンが出店を見ている間に、チケットを引き替えに行ったサムがゴザとペンとランタンを持って帰ってきた。
「ホットドッグ買ってきていいか?」
「さっき、昼食べたばっかなのに……場所をとってから行って」
空いている場所を適当に見つけたサムとゴザをひきながら、
「夜になったらランタンをあげるのか? 皆いっせいに?」
「そう。願い事を書いてからね。楽しそうでしょ」
ディーンは何かを察した顔をした。
「この間、見てた映画」
「はいはい、そうだよ。僕だってラプンツェルに憧れるんですよ」
「やはりサミーちゃんはディズニープリンセス」
「好きに言ってればいいよ」
「ロマンチストだよなあ」
「僕はね、少しでもディーンとイイ雰囲気を作る為には何と思われようと別に気にしないことにしたし、隙あらばそういう機会を作り、チャンスは絶対逃さないようにしようと常々思っています」
「意気込みが怖い」
夕日が地平線に落ちて、段々と砂漠に夜の帳が降りてくる。夜を待つ、長いようで短いその間、二人はとりとめもなく話をした。小さなゴザに身を寄せ合い、出店の食べ物をつまみながら、穏やかな時間を過ごす。
「たまにはいいでしょ、こういうのも」
「まあな、ヒマだけど」
「あんまり向いてないか。動いてないと死ぬもんね」
「回遊魚じゃねえよ、失礼な」
「そろそろ、願い事書いて用意しようか」
「船は出ないのか、あの映画みたいに」
「なんだよ、ディーンも見てたんじゃないか!」
「あの手配書の男、お前にちょっと似ててな……」
「彼より僕の鼻の方が高いはずだ」
その時、立ち上がったサムの近くで突然、子どもの泣き声があがった。見ると、後方の家族連れのゴザの上で、小さな男の子が破れたランタンを手に、わんわんと泣いていた。ランタンにペンで何か書いている時に力を入れすぎて破いてしまったようだった。