SPN

□Blue record(サンプル)
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・君の銀の庭(書きおろし)

それは、そう難しい事件でもなかったはずの狩りでの話。

その町では、それまで不眠症であった人達が、突然意識不明で昏倒し、眠ったまま目覚めない、というケースが続出していた。現場に共通して残されていた砂を手がかりに捜査を進めた我々は、山を張っていた家で、犯人と相対した。侵入したところを捕まえようとするも、破れかぶれの抵抗をされ、ディーンが攻撃を受けてしまった。

私をかばって前へ出たのだ。衝動か、反射か。間髪入れずにサムの拳銃が唸った。弾丸をくらった相手の断末魔を聞きながら、砂が舞い上あがるのを見た。

前に出たディーンが瞬きをして、粒はその大きな瞳の中へ吸いこまれるように消えていき、瞳は咄嗟に蓋をしめる。目の前で崩れ落ちるディーンの身体を私は受け止めた。

こうしてディーンは、眠りについた。その夜の相手が砂男であったが為に。


サムが撃ったのは、砂を固める凝固剤入りの弾丸だった。私達はまず、捕らえようとしていたのだが、妖精が苦手とする鉄で撃ちこまれたのが想定以上に効いてしまったらしく、砂男ははじけ飛んでしまった。幸いな事に、眠りにおちていた人々は退治と共に目覚めたが、何故かディーンだけは目が覚めなかった。私は頭を抱え、自分を責めた。ああ、ディーン。私など庇わずとも良かったのだ。 天使は眠らないのだから、私には効かなかったかもしれないのに。

「そんな事判らないだろ。妖精の砂は天使にも効くかもしれないじゃないか。キャスのせいじゃない。ディーンはそれが誰であっても、自分の身を挺してかばったさ。そういう人だから」

サムはそう言って私を慰めてくれたが、心は張り裂けそうだった。

ディーンは、食事も排泄も必要とせず、三日三晩眠り続けた。まるでコールドスリープのようだ、とサムは囁いた。眠りと言うよりは瞬間の停止。サムが解決方法を探す傍ら、私はディーンの体を拭き、数時間ごとにその向きを変え、開かない唇に、水を含ませた布で湿らせた。何かしていないと不安だった。夜は彼を抱きしめながら共に横になり、幾度となくキスをした。くすぐったい、と身を起こしてくれる事を祈って。

四日目。その日も、重たそうな睫毛が持ち上がるのを何時間も待っていると、ドアの外から、サムと魔女の声がした。

「暖めてあげているの? まあ、健気な天使サマだこと。まるで親鳥のよう」

開いたドアの先で、ディーンに添い寝する私を見て、魔女・ロウィーナは冷めた目で少し笑った。
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