SPN
□shine to darkness
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驚いて固まると、
「今のはお前の口か?」
「い、いや瞼だ」
くすくすと、笑う吐息が私のまつげを震わせた。ちゅ、と再度触れられる唇。耳の中に、ひどく熱を持ったため息が落ちた。触れられたところが燃えたかのように思えた。
「今度は?」
「目尻だ」
「笑いじわができてたぞ。お前今、ちょっと笑ってただろ。見てろ、次こそ当ててやるから」
「何を当てるというんだ、ディーン」
「何だと思う?」
キッチンからは、復旧はまだかと二人の声が飛んできている。二人に申し訳なく思いながらも、突然盲目になってしまったディーンを前にしては抗えない。次は鼻に甘噛みされた。
「それは鼻だ、ディーン」
「もうちょい、下か」
「ディ、ディーン」
私は大いに、うろたえた。とりあえず、クスクス笑いをやめてほしかった。妙に落ち着かなくなるんだ。私がおろおろしている間にも、頬に、柔いものが吸いつき、その長いまつげが目の下あたりをくすぐる。
「なんだよ、キスも券使わなきゃダメか?」
「キス? キスをしてくれようと? いや、それこそいつでもいくらでもお願いしたいところだが……」
君の気まぐれに、私の心が追いつかないのが問題なのだ。悶々とする間にも、当てずっぽうな唇が、あっちこっちへ不時着する。
それが、じれったく、もどかしい。
本気でやっているというより、恐らくは、判っていてやっている。からかわれているのだ。だが、こちらから彼の唇を当ててもいいのだろうか。しかし、下手に動いて機嫌を悪くされても困る。いや、彼は、怒る時は何をどうやっても怒るが……もたもたしていると、ついに、口の端へそれが添えられた。
つーっと、彼の唇が私の唇を、ラインを引く動きで横へと、ゆっくりなぞった。闇の中で艶然と彼は身をもたげると、舌先で私の唇に、ほんの少し触れた。ここまできて、本当に数ミリ程度に。
そして、目を閉じたままの彼は再度、なんとも官能的に耳元で囁いたのだ。
「ジャックポット?」
私はたまらず目前の腰を強く掴んだ。導火線に点火どころか爆発した後のような気持ちだった。
「どうする? ブレーカーを上げに行くか? それとも、」
そこまで言って彼は目をつむり、黙った。何かを待っているかのように。そんな姿を前にしてはもう、どうしようもなく。
結局、どんなプレゼントも彼の前ではかたなしだ。
熱い息が口からもれた。こうなれば、後でキッチンの二人にちゃんと謝るしかない。
《すまない、ジャック。復旧にはまだ時間がかかる》
性急にジャックへ思念を飛ばして、なだれこむように彼を引き倒しながら、私は深く目を閉じたのだった。