SPN
□shine to darkness
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折り畳んだじゃばらの紙とペンを懐から出して手渡した。
「どの紙も隅っこの方に「券」ってしか書いてないぞ。肩たたきって書くの、忘れた?」
「いやそれで合っている。「券」の前に好きな事を書いてほしい。私にやってほしい事を」
「キャスに何でも命令できる券か。しかも十枚つづり」
テーブルの下で両の拳を握り、緊張しながら言った。
「欲しいものでも私にやらせたい事でも何でも。できる限り努力はする……がんばる……」
ふーん、と紙片をぴらぴらと手で弄ぶ彼。とてもじゃないが、反応をまともに見れない。もう少し、良い思いつきが浮かべば良かったのに。こんなものをプレゼントなどと。
きっと、がっかりさせただろうと顔を下げる。しばしの沈黙の末、聞こえてきたのは文字を走らせる音。つい顔を上げれば、唇を尖らせた彼が表情筋をしめながら一枚、券を手渡してきた。目を落としたところには、走り書きでこう書いてあった。
「キャスがハグしてくれる」券。
驚いて彼を見る。
「これが今、君の欲しいものか? 本当に?」
「……なんだよ、わりぃかよ……わぁあ!?」
思わず椅子ごと飛びかかった。二人、絡まりながら床に転がる。
「こんな事、券を使わずともいつでもいくらでも。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ」
「マジかよ、俺のジーニーは優しいな」
ぽんぽんと背を叩く彼を、力一杯抱きしめ、頬を擦り寄せた。
「じゃあ、あとは大事にしまっておこ」
「できれば使ってほしいのだが」
と、その時、天井の明かりが消えた。
「停電か?」
警戒しながら彼を抱き寄せると、
「ごめーん! 電子レンジとオーブンを同時に使ったんだ!」
「ブレーカーが落ちちゃったのかもしれない! どっちでも良いから見てきて!」
キッチンからジャックとサムの声が飛んできた。
「私が見てこよう。ディーン、さあ、」
起きあがらせようとしたが、差し伸べた手は何故か捕まれない。天使に明るさは影響しない。しかし、人は明かりが無ければ眼前の気配でも見えないものなのだろうか。彼の視力に問題はないはずだが。見つめると、暗闇でも緑の瞳は楽しげに瞬いていた。まるで、闇に灯る一筋の希望のように。
「見えないのか、ディーン?」
首を傾げつつも、体を合わせるようにその背へ手をまわす。抱き起こそうとしたら、彼の手がそっと胸を押し返し、ふいに瞼へ唇が触れた。