SPN

□Jelly fish and Angel(C/D)
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「……男二人で、こんなとこ選ぶか普通」
「迷ったが遊園地は今度頼む」

「勘弁してくれ」
「どこでもいいと君が言った。だが君と一緒ならどこに行ってもきっと楽しい」
「…………」
「君は私と一緒だと楽しくないか?」
「……そんな事言ってないだろ」

ジョージア州はアトランタにあるジョージア水族館。「行きたい場所」と言われてキャスが飛んだ先はそこだった。

センテニアルオリンピック公園に佇むそこは、ちょっとしたテーマパークよりも広く、大きな建物だ。過去、世界最大でもあったここには国内外を問わず、多くの人が訪れる。沢山の人に混ざり、中に入る為のチケットを買う列に二人は並んだ。

「君と一度来てみたかったんだ」
「水族館に?」

「デートには外せない。そう聞いた。たまには君に、肉ではなく魚もいいものだと伝えたかった」
「食えないんじゃ、良さなんて判らねえよ」

「いや、ここはサメの展示に力を入れていると聞いた。昨晩、サメがトルネードでやってくる映画を見ながら、君は言っていたはず。「あれ、ちょっと食ってみてえな」と」
「……待て、サメが水槽をトルネードで割ってくると思ってる?」

「イケメンは死なない……」
「フラグだっただろ、あの場面は。こんな事なら一緒にB級サメ映画祭り、やるんじゃなかったなー。いらぬ教育をしちまった」

中に入り、広いホールを抜ける。

見上げきれない程、大きな水槽の中で大小様々な魚が気ままに泳いでいる。小さなグレートバリアリーフがそこにあった。

色とりどりの珊瑚礁にクマノミが踊る。点在する珊瑚と岩礁の隙間をくぐりながら沢山の小魚達が青く明るい空へ向かって泳いでいき、反対に白い砂浜へアオウミガメが降りてくる。マンタがひらひらと平泳ぎするみたいにキャスの前を通り抜け、コバンザメは軽やかにその後を追った。近寄ってきたエイが、ぺたりとガラスにへばりついた。驚いたキャスは少しのけぞって、その横で、貼りついたエイの裏面がキャスの顔に似ているとディーンは笑った。

「さっき泳いでたマンタもお前似」
「何を根拠にそんな事を」
「何も考えてなさそうなツラ」
「彼らのあれは顔ではないし私は大抵何か考えている」
「ウッソだあ」

二人は水槽を眺めながら、ゆっくりと館内を進んだ。深海魚の展示を眺め、顔を寄せ合ってタコ壺に潜むミズダコやパイプ管の中のウツボを覗いた。

マングローブのハゼやウナギ、眠る貝達にキャスは挨拶をして、ディーンはフジツボの横を歩くアシハラガニが食べられるかどうか、真剣に考えたりしながら、展示を見進めていく。

壁一面の水槽を眺めるディーンの姿に、ふと見惚れ、目を離せなくなってキャスは立ち止まった。

薄暗い室内に、水槽からの灯りが差しこんでディーンを照らしている。ガラスからの水紋を受けて、上の方を向いているディーンを、天上からの光が照らす様は、どこか神秘的だ。水面が揺らぐたび、緑の瞳は微細に色合いを変えて光を反射するのだった。

「……美しい」

まるで童話に出てくるような、海上を見上げる人魚の如き姿に、思わず、その手をとった。ぼんやり波間に揺らいでいた目がこちらを向く。

「何だよ」
「陸に憧れる人魚に見えた」
「俺が? アホか」
「ディーン。君は、君が思っているよりも遥かに魅力的なんだ。他人に盗られないよう、生け捕りにしておく」

言いながらも、繋いだ手はすぐさま解かれるだろうと思っていた。人前でこういう事をされるのは嫌がるだろうから。繋がった手から目線を上げれば、そっぽを向いた唇が、
「……まあ今日くらいは好きにさせてやるか」
と呟いた。

首を傾げる間もなく、引っ張られた手が彼のジャケットのポケットへ吸いこまれて、キャスは尚更驚いた。

「次に行くぞ。さっきアナウンスされてたイルカショー、折角だから見に行こうぜ」

手を引かれるまま、キャスは夢見心地で引っ張られていった。
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