SPN
□I'm on cloud 9(S/D)
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五十分を経過して、あちこちをひっくり返したディーンは唸った。タオルの中、テーブルの上、引き出し、ベッド下、ベッドの中、枕の下、テレビの裏、冷蔵庫の中……とたまごを見つけたが、どうしてもあと残り二つが見つからない。
「イースター、楽しいね」
「楽しくねえんだよなあ。お前だけなんだよ、楽しいのは。俺だってさ、俺の好きなとこ十個書いて隠したからねって言われた時は、そりゃちょっと、嬉しいかもなと思ったよ、正直。でもさ、書いてあるのを見てみりゃ、「顔と身体がいい」とか今見つけたのは「いやらしい」としか書いてねえしさ、後半やっつけ感が滲み出てんだよ。ろくな事書いてねえ。悲しいよ俺は。血を分けた弟が「兄のいいところ」で挙げてくんのが「やらしい」とかじゃさあ。お前弁護士志望だったはずだろ? もっと何か、こう……あるだろ」
「うーん、でも実際、えっちだから褒めたのに」
「しっかりしろ、悲しい顔をするんじゃない。これがキャスならお前、おれのいいところ百選とか出してくるぞ」
「じゃあ今度やらせてみなよ、全部に「異議あり!」って論破してやるから。ほら、あと二個だよ頑張って」
むーんと頭を捻ったディーンは、大きなテディベアみたいにベッドの上で座っている弟をふと見て、思いついたようにベッドへ登り、その体へ圧しかかった。体の後ろを確かめ、身体検査を始めて、シャツの中に首から下がったたまごを見つけた。
「隠し場所に悪意がある」
「ソンナコトナイヨ」
出てきた紙片に書かれた『僕のヒーロー』の文字を見下ろし、ディーンは目を柔らかく緩ませて笑った。サムは、その笑いじわを愛おしそうに撫でさすった。そして兄の首の後ろへ手を廻し、パーカーのフードをかぶせる。フードの中からこぼれ落ちた最後のたまごを持ち上げ、ディーンはますます笑った。
「なんてやつだ、このビッチ」
「ジャーク。バカだな」
チュッ、とその広い額に口づけ、サムが言う。
「じゃあ、僕の勝ちって事でいいかな? まんまと手中にやってきたウサギさんは美味しくいただかせてもらうよ」
「おい、せめて読ませろよ、俺の最後のいいところ。なんだよ」
何度も何度も額や頬、目元に鼻へと口づけられ、笑い声をあげながらディーンは顔を背けて逃げ回った。
とうとう抱きすくめられて、頬ずりされ、顔を向ければ、これ以上なく、うっとりとサムが見返す。懇願と欲望を含んだ弟の瞳が、どうしようもなく可愛くてたまらなくなって、ディーンは目を閉じて合図した。
「僕のウサギの足。もう絶対に逃がさない」
チョコレートのせいで甘くなったウサギの足に辟易したって知らねえから。
ラッキーラビットはその言葉を口内に隠し持ち、大人しくされるがままになるのだった。