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□O Come, All Ye Faithful!
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「それで何故、俺様の所へ来るんだ!?」
一連の流れを聞かせると、地獄の王は不服そうな声を上げて出迎えた。サンタの衣装をまとって更に愛らしくなったディーンは、
「どーせ、クリぼっち」
「彼の慈悲の心を無下にする気か?折角、失敗さ…ケーキを恵んでやるというのに何様のつもりだ」
「失敗作って言いかけただろう、今!? 俺はぼっちでもないしヒマじゃない。クリスマスこそ、かきいれどきなんだ! 誘惑に負け、魔がさす人間のなんと多い事か! 欲望のままに楽しむがいい、愚かな人間達よ、その先は地獄だがな!」
「かわいそうなおとこ」
「けっこうガチなトーンで憐れむのはやめろ……仕方ない、他ならぬディーンが、どうしても俺にケーキをくれたいと言うから、受け取ってやる。光栄に思うように」
私が作成したという事実は無論説明しなかったが、隠し味に聖水を入れればよかった。
「そうだ、帰りがけに一つ、おつかいを頼む」
そう言ってクラウリーが出してきたのはラッピングされたワインのボトル。
「これは献上された品だが俺の好みじゃないんだ。捨てるにも言った通り、俺は忙しい。「あの女」に捨てておけと言っておいてくれ」
早口でまくし立てた後、その指がパチンと鳴った。
瞬きの間に転移したのは、豪華な内装の部屋だった。
「あら、坊やたち。デートスポットじゃないわよ、ここは」
暖炉の前でサテン地の高価そうなソファに横たわる妙齢の魔女、ロウィーナは、気だるげに上体を起こすと、私の腕の中のディーンを見て笑った。
「まあ、ディーン! なんて可愛いの、小さい頃のファーガスにそっくり!」
この世で考えられうる最上級の罵倒を受け、茫然とする我々。
「どうしてそんなひどいこというの?」
「出会い頭に酷すぎる侮辱だ、許せない」
「侮辱ですって? やだ、違うわよ」
「ぴえんとおりこしてぱおん」
「可愛いって言ったでしょう? 褒め言葉よ!」
泣きそうなディーンにあやすつもりなのか、大きなクッキーが渡された。
「ほうていであいましょうね」
「あらやだ、受け取ったのに賄賂が効かないわ」
サクサクとクッキーを頬張る横顔から目を離せないまま、事情を説明しながらボトルを彼女へ渡した。段々と膨らむ頬を見ていたが、彼女が黙りこんだので顔を向けると、いつでも蠱惑的に映るその顔は、奇妙な表情をしていた。
「……私が昔、好きだったワインだわ。もう二度と飲めないと思っていたのに。一体どうやって手に入れたのかしらね」
嬉しそうな声のわりに表情は悲しげな微笑を浮かべていて、寂しそうなのにこの上なく満ち足りているような、とにかくあべこべの反応だった。捨てておけ、と伝えるように言われた、と私が説明する前に、
「サンタはいないって、しってるだろ?」
横で、楽しそうな声が言った。困ったように彼女が微笑む。
「じゃあ、正真正銘の、あの子から私へのクリスマスプレゼントなのね」
いや、捨てておけとあの男は……、だが伝える事はためらわれた。彼女のその時の表情は、まるで我が子を想う普通の母のようで。服の裾を引っぱられて顔を向けると、緑のクーゲルのようにキラキラと瞬く瞳が見上げていた。
「ケーキ、よってたかってたべれば?」
「……君の言いたい事は、なんとなく判る。私達も、もう長い付き合いだから」
「そう? ほめたのに、おれにくれなかったが?」
「私は……褒められていた……?」
「すなおじゃないスクルージもよんで、ケーキかえしてもらお」
顔に出てしまったのか、「ものすげーイヤそー!」と彼が笑い転げた。