SPN
□Whole Lotta Love!
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その言葉を受けて、ディーンはそっとグラスごしにステージを見る。光を反射するガラスごしにでもあの青い瞳は自分を捉えて離さない。ライトを浴びた青は煌々と稲妻のようにディーンを射貫こうとして、直立不動で無表情ながらも、その口から出るのは直情的な熱のこもる言葉。
よく聞くのはクラシック、ジャズなら楽器も演奏できますとでも言えそうな見た目のくせして、ハードロック。しかもサマになっている。そのギャップが何とも言えず、キャスを魅力的に見せていた。つい、ぼーっと見惚れてしまい、慌てて頭を振る。
『あふれるほどの愛をくれ』
いつも隣で聞こえる温厚な声が、キーも下げずにツェッペリンの顔をして語りかけてくる。優しく自分にだけ囁かれる声が、テープで何度も聞いた高音のパートさえ、トーンを変えずに歌い上げる。脳内で、そらんじる事のできる音が、自分をひどく安心させる声色で塗り替えられていく。
ああ、全くもってこれでは違う歌だ。こんなものはツェッペリンとは言えない。
ディーンはどうしても熱くなってしまう顔を腕で隠しながら酒を懸命にあおった。酒のせいで赤いのだ、この頬は。それ以外の何ものでもない。ごしごしと顔を擦り、焦ったように酒を飲む。
「ディーン!」
強く肩を掴まれ、思わず振り返ってしまった。
「もう酒はやめ……」
まずい、と思った時には、いつの間にか歌うのを中断して傍らに来ていた青い瞳に、蕩けるような顔をした自分が映っていて、次の瞬間、その目が驚きに見開かれるよりも早く、バーから逃げ出していた。
*
追いかけっこをする気はさらさらなかった頭脳派天使に、バンカーの自分の部屋まで飛ばされたディーンは、彼の腕の中で頭を抱えて丸くなっていた。
「ディーン、私は歌ったのに何故、顔を見せてくれないんだ」
「……もう寝る」
「君の気は済んだかもしれないが、私の気が済まない。あんなにも欲情をそそる顔をしておいて逃げるなんて。私は君に愛をあげたのに」
「ツェッペリンに謝れ。どうしてくれるんだ、もう脳内であの曲がお前の声でしか再生されなくなっちまった。冒涜だ」
キャスは、ディーンの顔を隠す両腕を優しく掴み、そっと引く。
「あふれるほどの愛を与えよう。だから、」
あふれるほどの愛をくれないか?
囁きは唇で塞がれて音にならず、ディーンの喉に流れ落ちた。