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□【WEB再録】生のままごと、分かち合うまねごと
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双方一段落して、ふと考えた。

添えてあったキノコは川向こうの森でとったのかもしれない。魚も、捕まえるのに手間がかかったはずだ。何だか申し訳なくなって、言う。

「……ディーン、軽々しく君の料理が食べたいと言ってしまって悪かった。昨日のハンバーガーも作るのが大変だったろう。君の負担になるつもりはなかったんだ」

すると彼は、何故かきょとんとして、長い脚を折り畳むように両腕で抱えこみ、上目遣いに私を見た。

「……別に、いい。負担じゃないぞ」
「本当に?」

唇をとがらせて、ぶつぶつ彼が言う。

「俺が作るもんをお前が食うの、見てんのはけっこう好きだ。なんか、分け合えてるって感じ」
「分け合う?」

「立ち寄ったとこで調達した食材でさ、メシ作ると俺の生きた証ができた気がするんだ。確かにここで、こうして魚とって、それを食ってる。すると、俺、今生きてるなーって実感するんだよ。うまく言えないけど」

だからお前に食ってもらえて嬉しい、と彼が言う。

「お前も確かにここにいて、一緒にメシ食ったってのが、俺の中でずっと残るからな。思い出として」
「ディーン……」

胸が熱い気がするのは料理のせいだろうか。

「私も……私も、嬉しい。君の料理は胸に残る」
「はは、なんだそりゃ」

「人間の基準で美味いか不味いか、という判別はあまりよく判らない。味覚と食欲は天使には不要だったから。だが、好きか嫌いかで言えば君の料理はとても、好き、だと思う」

己の感覚に自信がないというのも妙な話だ。

「聖餐式というものがあるだろう。キリストの体をパン、血をブドウ酒だとして皆で分かち合い、食べる儀式だ。今、君が言った言葉と似ている。感銘を受けた。私は、君の血肉を、君の生きた証を分けてもらったのかと」
「いちいちスケール、デカくすんなよ!」

「君が私に分け与えてくれるものはとても暖かい。この料理は食べる者の事を考えて作られていると判るんだ。多くの愛情が込められている。だから私は嬉しい。食は大切だな。君の愛情が感じられるから」
「もうやめろ! それ以上変な解釈すんなら没収だ!」

ディーンは焚き火を飛び越え、私に掴みかかってきた。思わず、皿をかばいながらその両腕を避け、空いた手で彼の腰を掴み、押さえた。
圧しかかるような態勢になった彼が顔を上げ、目線がかち合う。ぱちぱちと火の粉の爆ぜる音。赤に照らされた彼の姿。ふと訪れた静寂に背中を押されるようにして、私は彼の額に口づけを落とした。

「…………」

驚いて見開かれる緑いっぱいに、私が映っている。どちらからともなく、顔が近づいて、

「僕のいないとこでもそういう事はしないで!」

車の窓から身を乗り出し、叫んでいるサムの声が頭上に落ちてきて、彼に凄い力で突き飛ばされた。

人間は空気が読めるらしいが、サムに至ってはそうではないようだ。もう少し寝ていてくれても良かったのに。
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