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□【WEB再録】生のままごと、分かち合うまねごと
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ことんと置かれたのはバーガーの乗った皿。トーストされたパンズ、大ぶりのベーコン、みずみずしいレタス、スライスされたトマトにオニオン、そして肉汁も見事な分厚いパティの上から、とろとろとチーズが滝のように溶けてたれている。その香ばしい香りを前に、テーブルへ着席すると、ディーンはパンズの上から旗を刺した。

旗には羽根のついた人物にかろうじて見えるような名状しがたい何かが描かれている。

「ふふん、ガキはこういうの喜ぶからな、特別だ」
「……まさかとは思うが、この旗の絵は私……?」

「当たり前だろ、それ以外の何に見えるんだ? 絵心ないな」

その独特な飾りを見つめていると、ディーンは私と向かい合わせに座った。側面にサムがやってきて、

「あー……やっぱり肉肉しい料理だ……判ってた」

困ったような顔で笑った。

「うるせえなあ。なんだよ文句あんのかよ」
「味には大満足なんだけどレパートリーをもう少し増やしてほしい……まあいいけどね。あ、キャスのバーガー、お子様ランチみたいになってる。すごい甘やかしっぷり」

「そんなサミーちゃんには万国旗を用意しておきました!」
「いいよいらな、あああ、たちまち穴だらけに!」

この旗を貰ってもかまわないか、あとで聞いてみよう。三人して、いただきます、と唱和。神に祈るなんて今更馬鹿らしくて誰もしない。目の前で、んが、と彼が大口を開けてかぶりついた。私もそれに倣い、両手にとって、かじりついてみる。ボリュームのあるバーガーだ。

まず、もちっとしたパンズの食感の後、とろとろとチーズの奔流が口の中いっぱいに広がった。それをかいくぐるようにしてレタスがシャキシャキと舌の上で踊り、野菜類をかじっているとブラックペッパーなどの香辛料の香りが鼻をかすめた。肉厚なベーコンは油がねっとりと絡みつき、極めつきはその下の分厚いパティだ。合挽き肉がナツメグやタイム、バジル等のハーブと混ぜこまれ、ぎゅうぎゅうになって私の口の中を圧拍した。肉汁が特に多い。

私には、食の楽しみや、食物が美味いか不味いか、未だによく判らない。味への感動や感情等は浮かばないし、天使は物を食べる必要がそもそも無いからだ。だから興味も共感も無かったが、ディーンが食べることの意味を教えてくれた。だから、これもままごとだ。けれど意味がないとは思えない。ディーンを理解するうえで大事な事だ。

これからは少しずつ判るようになれればいいのだが。
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