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□破滅的で、魅惑的なその一言(ノヴァスミ)
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ジミーは思わず口を抑えた。
なんだか、えっちだ、と、つい口走りそうになったのだ。しかし、この状況にしたのは他ならぬ自分なのである。なので黙ったのだが、熱くなる顔を抑えきれそうになかった。
「ノヴァックさん?」
下を向くジミーを窺い見るそんな姿まで、無防備故に、健康的ないやらしさがあって、どうしようもない。
「ごめん、振り返ったらすぐ後ろにいたから、びっくりしたんだ。あはは……」
空虚な笑いが口から出たが、心中は穏やかではなかった。とりあえず自分の上着を差し出せばいいのでは、と思い至った時、ディーンが笑った気配がした。自分が笑ったから、つられて笑ってくれたのかな、と思ったら、ふいに耳元に唇が近づいてきて、
「今僕が叫んだら、ノヴァックさんどうなっちゃうんだろう」
シャツの裾を少しつまみ上げながら、そう、囁いた。
それは脅しではなかった。社会的な死を想像させるものでもない。ただ、ジミーは、ぞっ、と鳥肌を立てた。あまりに破滅的で、魅惑的な囁きだったから。
抑えたままの口元は、自分でも不可解な事に笑みを深くしていた。ともすれば、悦びを感じていた。被虐的な趣向は、自分にはないはずだった。どちらかと言えば、逆だ。なのに何故、と自問し始めた時、
「……あ、あの、今の、冗談です」
おっかなびっくり、といった感じで、下を向き続ける自分の顔をディーンが身を屈ませ、覗きこんできたので、
「あっ、ああ〜、そう……そっかぁ……」
ジミーは、ドアにもたれ、ずるずるとそのまま床に座りこみ、足を抱えて丸まった。
「あやうく、「叫んでよ、今すぐ」って言いそうになったよ〜」
「え、ええっ」
にわかに慌てだすディーンの顔を、見る事もできなかった。ああ、困ったな。
「ごめん、しばらくこのままでいさせて」
「な、何故」
「いや〜……」
ちょっと「上」も「下」も、見せられない事になっている、と、そこまで口にする勇気は、なかった。