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□破滅的で、魅惑的なその一言(ノヴァスミ)
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ジミー・ノヴァックは、サンドーバー社の廊下をスキップしていた。営業部の、ディーン・スミスの個人オフィスへ至る道すがらで、最近よく見る光景である。
サンドーバー社の競合相手で取引先でもある「ランダム・アクト」社のCEOであるジミーのそんな姿に、初めは目を丸くした社員達も、今では慣れてきていた。
ジミーは、ディーンの名前が書かれたドアを、ノックもせずにいきなり開けて、
「スミス君、サプラーイズ! 約束は昼過ぎだったけど、お昼を一緒にどうかなって早めに来ちゃったよ!」
満面の笑顔でそう言った。その声に驚いたのか、開かれた室内では、ディーンがズボンにコーヒーを零した体勢で、ジミーを見ていた。
「ご、ごめんね、スミス君……」
「大丈夫です。コーヒーは飲みかけで冷めていたので。でも、今度からは声をかけてくださいね」
扉を閉めて反省のポーズをするジミーに、ディーンは怒りもせずに返事をした。
「シミになっちゃうから脱いで!」
「えっ、でも、」
「クリーニングに出すから!」
固辞するディーンだったが、
「いやホントに!僕が悪かったんだから、そのくらいさせて!代わりのズボンを、うちの誰かに持ってきてもらうから、嫌だろうけどちょっと脱いでいてほしいんだ。この部屋には僕と君しかいないし、ほんの少しの間だけだから……ホントにごめん」
なんとしても引かないジミーに、やがて苦笑しながらディーンは頷いた。室内に、しゅる、と衣擦れの音がして、ジミーは慌ててドアに向き直った。そこでふと我に返り、よく考えたらこの状況は、何だかすごい事なのではないか、という事に気づいた。
よからぬ想像をしてしまいそうな頭を振っていると、
「ノヴァックさん、もういいですよ」
その言葉に思わず振り向いた。すると、すぐ後ろにズボンを持ってディーンが立っていた。
「!」
少し長めのシャツから、白い下着の端が見えていた。太ももにはシャツガーターが装着されており、膝のすぐ下は長いハイソックスだ。ストライプの白と、同じくらい白い下着が、眩しい。
何より、ディーンの太ももの上を武骨な黒いシャツガーターが覆っているのが、いやに映えていた。むっちりとした太ももを、まるで緊縛しているようにまとわれたそれが、少し恥ずかしそうにしているディーンの表情と相まって、そこはかとなく、背徳的だった。