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□【Web再録】Frantic sweets syndrome
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【ホットケーキ&メイプルシロップ】
「馬鹿げた事もあるものだな」
ぼんやりとした、いつもの口調でそう言ったキャスに、ディーンは溜め息をついた。
バルサザールがディーンを転移させた先は、天界にいたキャスの頭上だった。落ちてきたディーンを(意図せず)身をていしてキャッチしたキャスは、
「ちょうど逢いに行こうと思っていたが、空から降ってくるとは。天界もついに異常気象か」
とディーンの尻の下で言ったのだった。
「晴れ時々俺とか嫌じゃない?」
「それこそエデンだと私は思うが」
「あっそ……良かったな、どうしようもないお前に俺が降ってきたぞ」
「天の落し物なら私が貰ってもいいだろうか」
小首を傾げたキャスだったが、ディーンの面白くないと言いたげな顔を見て、小さく頷いた。
「バルサザールから事のいきさつは聞いている」
「テレパス?やべぇ……あいつに話せばもれなくお前に全部つつぬけ?」
「きみに何か甘い物を贈れ、と言われた。ディーンが一時的にいつもよりぐうたらになっているので、甘い物を与えて元気にしろ、と」
「誰がぐうたらだ!」
「何か得体のしれない酒を飲んだようだが」
「そうだよ、インドの神々信仰宗教現場でな」
「インド神話だとソーマ酒が有名だ。祭火で諸々の神に捧げられ、残りを祭官と人々が飲む。興奮性の飲料だ」
「多分違う気がするけど、その効用は?」
「詩人の美しい言葉が聞こえ、空高く舞うような心もちになる。万病を癒し、寿命を伸ばし、」
そこで言葉をきったキャスは、じっとディーンを見つめながら、ぽつりと。
「何より、催淫性がある」
「…………」
「…………催淫性が」
「大事な事じゃないから二回言わなくていい。そんな感じは全くないから安心しろ」
「……そうか……そのようだな……」
「本気でがっかり目を伏せるんじゃない!」
ディーンにぽこんと軽く殴られ、キャスは気を取り直したように言う。
「ザルコステンマ、あるいはインド大麻がソーマ酒の主成分ではないかと言われている。きみが飲んだ物が本物だったら今頃廃人になっていたかもしれない。今後は気をつけてほしい」
「俺が廃人に?そうなったとしてもお前が俺を助けてくれるんだろ?」
「無論助けるが、危険な目にあってほしくない」
キャスは困ったように眉を微細に動かしたが、ディーンは満足そうに笑うだけだ。
「そういえば、バルサザールに『いつもより甘いから気をつけろ』とも言われた。何の事だろうか」
「さぁ?あいつの考えてる事は判んね……甘いって言えばさ、なんか甘い匂いがしないか?」
「ああ、パンケーキ大会が行われているんだ。それできみを呼ぼうか迷っていた所だった」
「……はぁ?」