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□【Web再録】Frantic sweets syndrome
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「…………」
バルサザールは、リップスティックをじっと見下ろして、ディーンを見ると、殊更何でもないような素振りで、それを自分の唇にも塗った。
いつもやっている事だし、別に何とも思わないと言いたげにしかめられた横顔を、しばらく観察していたディーンだったが、
「コレ、なんか匂いがする」
唇から香る匂いに、くんと鼻を鳴らした。
「ストロベリー味のリップ」
「ますます、お前、キモ……」
「しつけえな!」
「味がついてんの?リップに?やべぇ」
何がやばいのか、と聞こうとしたのだろう。それまで横顔しか向けていなかったバルサザールが、正面を向いた。同時にディーンが身を乗り出す。
「……な、」
何だ、と反応する前に、鼻と鼻の先で、ディーンは顔を傾けたかと思うと、バルサザールの唇を自分の唇で挟んだ。
目を見開いている間に、かぷっと唇を甘噛みされ、小さく伸びた舌が表面を舐めると、すぐに離れた。
バルサザールは、驚きに椅子からずり落ちる。元の位置に戻ったディーンは何故か怒っていた。
「ストロベリーの味なんかしないぞ」
「はぁ!?」
「この嘘つき!全然、甘くなかった」
憤るディーンを前に、呆然と手の中のリップスティックを見下ろし、バルサザールはやっと先ほどの行動の意図に気がついた。
「……お前、この、バカモンキーが!」
「なんだとこの野郎!」
「これは匂いだけで、ストロベリーで出来たリップじゃない!判るだろ、それくらい!」
「味って言った!」
「ああ悪かったよ香りつきって言やあ良かったよ、何せここまで阿呆だと思わなかったもんでな!」
「なにこいつ……逆ギレとか……」
「俺の方がドン引きだ!何より自分の口にも塗ってあんだから自分ので試しゃいいだろうが!」
「口を食いたくなったら困るじゃん」
「俺の口なら食ってもいいと!?」
言いあっているうちに段々、意味が判らなくなってきたバルサザールは、ホットワインの所為か、ぐらりと傾ぐ頭を両手で抱え、唸った。
「くそっ、確かにお前が飲んだ酒を調べる必要がありそうだ」
「あれ?何で急にやる気出してんの」
がたっと椅子から立ち上がったバルサザールは、酔っているのか、赤らむ顔を片手で隠していた。
「断じてやる気なんか出してない!いいか、俺がいいと言うまで俺の前に出てくんじゃねえぞ!」
ディーンの肩を掴むと、バルサザールは怒鳴る勢いで言った。
「もうちょっとよく考えてから行動しろ、バカ!」
ディーンが言いかえそうとするより早く、世界が加速するように遠くなり、カッと光が弾けた。