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□軽い愛と重い恋(ノヴァスミ)
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「スミス君、そういうの、ヘラジカ君の前でやっちゃダメだからね。僕の前でだけ、やりなさい」
「?」
そのまま、互いに静止する事、五分ほど。
先に、そわそわと視線を漂わせ始めたのはスミスの方だった。
動こうにもめくれてしまいそうな裾が気にかかる。それに、何故か腰をガッチリと捕まえられていた。
ノヴァックをちら、と窺えば、いつも通りの余裕ある微笑で膝の上のスミスを眺めていた。
無言で、じっと眺めるだけだ。何を考えているのか、全く分からない。
いたたまれなくなってきていた。
きっと、こういうシチュエーションには慣れているのだろう。
そう思う程度には、その笑顔はいつも通りすぎて、何故だか心がチクッと痛んだ。
「……ノヴァックさんこそ、会社の女性に、こういう事、しちゃダメですよ。ホントにセクハラで訴えられますからね」
苦し紛れの一言だった。
ノヴァックは片眉を上げて不思議そうに言う。
「僕が、君以外にもこういう事をすると思う?」
「慣れていそうでしたから。いつも通りのスマイルを浮かべてるし・・・あと、今の間、何か無言で企んでいたみたいだったので」
「慣れてなんかないよ。企んでいた、というのはまあ、あながち間違いではないけど・・・そうだね、白状するとこの状態から君をどう可愛がってやろうか、シチュエーションをパターン展開していたところだった」
「!?」
人の良さそうな笑顔が、一転してニヤリと悪役めいたそれに変わった。
「いいかい、スミス君。覚えておきたまえ。僕の笑顔はね、実は肉食系なのを隠す為に浮かべているものなのだ!」
芝居がかった動きと口調でそんな事を言うと、スミスの手にそっと触れた。
「僕の愛は軽い、と人は言う。だが、僕の恋は重い、と人は知らない」
手の甲へキスを落とすと、
「だからね、スミス君。本当のところ、僕は、本気になった人からしか、こういう悪戯は受けない」
改めて、へにゃりと微笑んだ。
「安心した?」
「は、はい?安心とか、僕は別に……」
「ところでハロウィンの仮装なら、「トリック・オア・トリート」ってやらないの?」
「いやだって、僕は別に仮装しようと思って来たわけじゃないですよ」
「じゃあ、何しに?そもそも所用って何だったの?単に、僕に会いに来てくれたって事でいいのかな?」
いや別にそういうわけでも、と下を向いてゴニョゴニョ呟き始めた。
「ねえ。こっち向いてよ、スミス君」
そう言って顔を覗けば、みずみずしいリンゴのような赤い頬をしたスミスが困り顔で固まっている。
ノヴァックはそれを見て、満足そうにフッと笑った。
「そういう反応するから、僕の恋は重くなるんだよ」
※その後、ノヴァックさんのオフィスには何故か一日体験秘書をおこなう羽目になったスミスさんの姿が!