BatCat

□蝙蝠も腕の誤り(サンプル)
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《お乗りください》

執事の声がそう言ったかと思うと、薄暗い駐車場の中、一つの大きな影が目映く光った。

それはいつの間にか、ディーンのインパラの隣にあった。さながら洞窟に潜んでいた蝙蝠のように、インパラの影と一体化していて、ヘッドライトと共に突如として膨れ上がった存在感。

ブオン、という大きな駆動音と共に、それは音も無くディーンの前まで動いてくる。

「すげえ」

ディーンは、ただただ、唖然とした。
 
そこにあったのは戦車のように武骨で、物質化した闇かという程、黒い装甲車。何者をも踏みにじる大きなホイール、ジェットエンジンの噴射口がバックに鎮座している。どこまでもスマートでいたってシンプル、しかし極めて攻撃的なそれは、バットマンの愛車、タンブラーと呼ばれるバットモービルだったのだ。





「お前だって俺に会いたかっただろ?」
 
ニヤッと笑ったディーンに、しかし、

「……会いたくなかった」
「そうだろう、そうだろう。会いたかっ……何!?」

ブルースはむっつりと下唇を噛んだ。

「会いたくなかっただと? ふざけやがって」

どん、と胸を押す。

「今は、という意味だよ。勿論、いつもだったら歓迎したんだが、これには深い理由があって、」

押した胸に自分の体を押しつけるようにして、ブルースの体を押す。作業台に背中がぶつかった。

「ディーン、聞いてくれ」

しかし、伸びあがった猫のような姿勢で、背を弓なりにしたディーンは、ブルースにしなだれかかり、柳眉を上げて小悪魔的に笑って黙らせた。

「調子に乗るなよ、おぼっちゃん」

すぐ近くで、言い聞かせるようにゆっくり動く唇から目が離せない。

「随分失礼な事を言ってくれるじゃねえか。けどな、お前の気持ちなんざ知るか。お前だって俺の意向なんか聞かねえで会いにくるだろ。だから俺も勝手にするって今、決めた」

密着する体に、顔がどんどん近づいてきて、もう唇は鼻と鼻の先だ。このまま、こちらが食らいついてしまう前に重ねられてしまいそう。

「それにしてもどうして、そんなつれない事が言えるんだ? 俺は会いたかった。会いたくてたまんなかったのに」

夜露に濡れた葉のような瞳が、懇願する。

「なあ、かまってくれよ」

それとも、これも夢なのだろうか。それなら、いいだろうか。ゆだねてしまっても……
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