BatCat
□蝙蝠も腕の誤り(サンプル)
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《お乗りください》
執事の声がそう言ったかと思うと、薄暗い駐車場の中、一つの大きな影が目映く光った。
それはいつの間にか、ディーンのインパラの隣にあった。さながら洞窟に潜んでいた蝙蝠のように、インパラの影と一体化していて、ヘッドライトと共に突如として膨れ上がった存在感。
ブオン、という大きな駆動音と共に、それは音も無くディーンの前まで動いてくる。
「すげえ」
ディーンは、ただただ、唖然とした。
そこにあったのは戦車のように武骨で、物質化した闇かという程、黒い装甲車。何者をも踏みにじる大きなホイール、ジェットエンジンの噴射口がバックに鎮座している。どこまでもスマートでいたってシンプル、しかし極めて攻撃的なそれは、バットマンの愛車、タンブラーと呼ばれるバットモービルだったのだ。
*
「お前だって俺に会いたかっただろ?」
ニヤッと笑ったディーンに、しかし、
「……会いたくなかった」
「そうだろう、そうだろう。会いたかっ……何!?」
ブルースはむっつりと下唇を噛んだ。
「会いたくなかっただと? ふざけやがって」
どん、と胸を押す。
「今は、という意味だよ。勿論、いつもだったら歓迎したんだが、これには深い理由があって、」
押した胸に自分の体を押しつけるようにして、ブルースの体を押す。作業台に背中がぶつかった。
「ディーン、聞いてくれ」
しかし、伸びあがった猫のような姿勢で、背を弓なりにしたディーンは、ブルースにしなだれかかり、柳眉を上げて小悪魔的に笑って黙らせた。
「調子に乗るなよ、おぼっちゃん」
すぐ近くで、言い聞かせるようにゆっくり動く唇から目が離せない。
「随分失礼な事を言ってくれるじゃねえか。けどな、お前の気持ちなんざ知るか。お前だって俺の意向なんか聞かねえで会いにくるだろ。だから俺も勝手にするって今、決めた」
密着する体に、顔がどんどん近づいてきて、もう唇は鼻と鼻の先だ。このまま、こちらが食らいついてしまう前に重ねられてしまいそう。
「それにしてもどうして、そんなつれない事が言えるんだ? 俺は会いたかった。会いたくてたまんなかったのに」
夜露に濡れた葉のような瞳が、懇願する。
「なあ、かまってくれよ」
それとも、これも夢なのだろうか。それなら、いいだろうか。ゆだねてしまっても……