Project&Request
□Night
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それは恋人つなぎというやつで、それまで手だけを見ていた僕はちょっと間抜けにぽかんと口を開けて兄の顔を見上げた。
目と鼻の先まで、すいと近寄った顔が、してやったりとにんまり笑ったので、ぼふん!と音が出そうなくらい顔が熱くなった。
「……っ、クソ、なんだよノリノリじゃないか」
マフラーを引き上げて顔を隠せば、ニヤニヤしながら覗きこんでくる憎らしくも愛らしい顔が見てくる。
「チェリーをからかうのは楽しいからな」
「誰がチェリーだよ…言ってなよ、ビッチ」
なら、その可哀想なチェリーに兄貴のバック使わせてよ、と言いかえすのはさすがにやめておいた。
道の終点まで歩いていくと、人の背丈ほどの高さがあるキャンドルのタワーがあった。
ピラミッドというよりトランプタワーみたいなそれは、緑一色に塗られた蝋の色あいから見てもツリーを表しているようだ。それぞれに灯る小さな火が電飾代わりらしい。
路上を彩っているキャンドルからの照りかえしを受けて、タワーがひときわ明るく輝いている。それはやたらキラキラして、僕の目に映った。
ちょっと角度を変えると炎が輝く色が違って見えたので、体をあちこちに傾けていたら、ふいに横から声が落ちた。
「ああ、こういうの良いな」
それは、さっきからキャンドルのツリーに見入っていた兄の声だ。感嘆の溜め息と一緒に声まで落としたような、そんな、なんでもない声だった。