Project&Request
□Day
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街には、クリスマス・マーケットという市場が広がっていた。
彼の説明によると、期間限定でこの時期にだけ、この街の人々はクリスマスのお祝いを兼ねて市場を広げるのだという。
もみの木から切り出した枝葉を使ったクリスマスリースや、蜜蝋で出来た様々な形の美しいキャンドル、木彫りの聖ニコラスなどを彼とぶらぶら歩きながら見まわっていく。
寒空の下であっても人々の顔は喜びに満ちていて、口々にクリスマスの到来、そしてキリストの生誕を言祝いでいる。市場の活気は高まるばかりのようだ。
「またアンナにお小遣いもらってきたのか、キャス?」
「安心してほしい、前のような失敗はしない。私が使いたい時に使う」
「寄付だって大事な使い道だ」
「しかし、持っていた全額を寄付するなんて愚かだとバルサザールに笑われたんだ…」
前々回のクリスマス、ディーンと過ごす為にアンナが持たせてくれた金を全て、聖歌隊に寄付したのだとバルサザールに話したら、ガブリエルと二人して散々にからかわれた。
アンナにも「キャスらしいけど今度は貴方の為に使ってみたら?」と苦笑いで言われたのだ。
私らしい、というのはどういう意味なのだろう。
欲が無いと度々言われはするが、私に欲が無いなんて事はない。
ディーンを前にすれば私だって、人間と同じだ。
所有欲に独占欲、ありとあらゆる欲望が渦巻いている。
その欲望全ての対象である人物は、そんな事気にもかけないが。
「今年は君が欲する物だってプレゼントできる」
「そうするとお前の所持金は屋台めぐりで枯渇する事になるがいいのか?」
居並ぶシュトーレンやクリスマス・プディングを、狂おしい表情で見つめる彼の視線を引き戻した。
すると猫が喉を鳴らすように笑ったので、からかわれたのだと気がついた。