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□今宵も世界は恋に酔う(SD)
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夜の海は灯り一つ無く、辺りにはカンサスが静かに響いていた。

泣き喚くわがままな息子よ お前が泣き止んだとき平和が訪れるだろう″

僕がランタンをボンネットに置き、地図を広げて現在地の確認をしている横で、ディーンはインパラの天井に登って腰かけ、エアギターを弾きながら歌っているのだ。

疲れ果てた頭のことを忘れ去って もはや泣くことはない″

びしょびしょの服を夜風にまかせ、目を閉じて歌う横顔は穏やかで、僕は思わずそれに見惚れた。

ざざん、ざざんとさざめく波の音がディーンの歌に混ざり合う。

地図を置いて近寄ったら、ランタンの仄かな灯火の中で照らされる美しい笑みが返ってきた。

手を伸ばして腰を抱きしめたら柔らかい手が頭を撫でてくる。

「服乾くまで乗れないね、どうするの?」
「もういいやって思い始めたとこだ」

何が、と聞く前に、ひょいっと地面に降りたディーンは靴を脱ぎ捨てると海へ再び入っていった。

どんどん入っていって腰あたりまで浸かったところで慌てて駆け寄った。

「ちょっとディーン!」

声に振り返ったディーンが手を広げて僕を誘った。

「どうせなら泳ごうぜ、お前も来いよ」

うっとりとした声色が恐ろしいほどに甘くて逆らえるわけもなく、誘われるままにフラフラと波をかき分ける。
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