Project&Request
□Achwie flchtig, ach wie nichtig
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反射的に引き返そうとしたディーンだったが、思いなおして立ち止まった。
声が風に乗って、おぼろげに耳まで届いたから。
「……『憎まれっ子、世にはばかる』だなんて俗説だとばかり思っていたが、俺はこうして生き長らえちまったよ…あんたは覚えてるか、ヘネシー、チャズ、ビーマン。俺の友人達……皆死んだよ。そういえば『もう1人のジョン』も死んだって?冗談だろ、クソったれ。生きてるのが俺だけじゃ、逆に俺こそ死んでるようなもんだ。あんたも『もう1人のジョン』もいないなんて…あんたらだけ、勝ち逃げだなんてずるいじゃないか」
懺悔室で神父に罪を告白するような低い声は、震えてこそいなかったが弱々しい響きを持っている。
ディーンはもう一度、その影をじっと見てみた。
見知らぬはずの、男の背。
「…………キャス?」
それは知り合いの天使に酷似していた。
思わず呟いたディーンを、男が振り返る。
だが振り返った顔は、見知ったものではなかった。
天使に似ていたのは背恰好だけで、男は無言でディーンの目を見つめている。
ディーンが最初に彼へ抱いた印象は、蜃気楼。
ゆらゆらしていて、近寄れば遠ざかり、捕まえようとすると消えるようなイメージ。
どこか捉えどころのない男は、全身を黒で染めていた。
陽が落ちたのと同時に、近くの電灯が点滅しながら男を照らし出す。