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春の天使
※春の天使はいつもより若干、頭のネジがゆるめ
鼻を叩かれて彼がサミュエルを追いかけながら走っていってしまったので、私はゆっくり後を追う事にした。
気温が実に程良い暖かさで気持ちも穏やかに歩いていると、前方の木がガサリと揺れる。
サクラと言うらしい木から落下してきたのはネコだった。ぷるぷると体を揺らしている。
よく見るとディーンに似ている……。
ブラウンの毛並み、ヘイゼルグリーンの瞳……
そのまま観察していると、ひらひら落ちる花びらを小さな手でちょい、ちょいと獲ろうとしてピョンピョン跳ね始めた。
「まさか…ディーン?」
「にゃ?」
そんなはずはないと判っている。判ってはいるのだがどうにも動作が似すぎている。
「以前の悪魔がまた私を騙そうと、彼を本当にネコにしてしまった可能性も考えられなくはない…」
人狼だっているのだ、人猫にされてしまう事だってあるかもしれない。
「な、何故私に早く相談しないんだ」
「にゃあ」
振り返って、くりくりした目を私に向けながらネコは首を傾げた。この愛らしさやはり彼なのか……
「にゃあでは無い。きちんと説明を」
「にぅ」
「黙秘権の行使か…それもいいだろう、ガマン比べなら得意だ」
しゃがんでから、彼の両手を持ち上げて同じ目線にすると(彼の体はとても伸縮性があってよく伸びた)彼は機嫌が悪そうにしっぽを大きく揺らした。
そのまま手を離さないでいるとじたばたと大きく体まで揺らし始めて、
「あっ」
するんと私の手をかいくぐり、すぐそばの茂みへと消えてしまった。
しゃがみこんだ体勢のまま消えたあたりを呆然と眺めていると段々、頭が冷えてきた。
「何を考えていたのだろう…あのネコが彼だなんて…本当に彼だったら私から逃げるわけがない。状況も説明するだろう…どうかしていた」
この陽気のせいだろうか、なんだかこのサクラという木を見ているとあまりに幻想的なので何が起こっても不思議ではない気になるのだ。
先ほども彼がたんぽぽの綿毛のように見えてしまったし…と自分の思考回路を反省していると、再びガサリと茂みが動いた。
きっと先程のネコだろう。
謝罪をしようと思い、振り返ると、
「……お前、なんでついてこねぇんだよ」
茂みをかきわけて、ディーンが立っていた。
ヘイゼルグリーンの瞳が私をすがめ見て、ため息。
「振り返ったらいねぇし、俺は迷子を捜す親の気分を味わったぞ。サムはホットドッグの屋台に並んでるから追い…何だよ、その鳩がガトリング食らったみてぇな顔」
「や、やはり君は人猫なのか!?」
「……(゚Д゚)ハァ?」
※『彼は猫である』説浮上の春。