Log
□Log8
2ページ/10ページ
あにきと!〜余裕のある男〜(AD)
ディーンがゲーム機を持ってはしゃいでいる。
「アダム、マリカーやろうぜ!!俺クッパな!」
俺の中でクッパはイメージ的にサム…と思いつつ、俺はチラッと後ろを振り向く。
そこには直立不動で無表情で、くたびれたトレンチコートの男が実に威圧感たっぷりに立っていた。
「…………」
相手も俺を見ている。
「…………」
み、見ている。
じーーーっと。
「ディーン、」
「おう、何だ」
「あの人は誘わないの?」
「キャス、交代でお前もゲームやってみるか?」
「……いい。私は見学していよう」
そのまま、後ろのイスに座ってしまった。
そう言えば俺はこの天使について、あまりよく知らない。名前はキャスって言うらしいけど関わった事もあまりないし、知ってるのはどうやらディーンの守護天使らしいって事くらいだ。
よくわからない人だと思った。
それから数時間が経ち。
「よしっ、ここでコウラアタック!!」
渾身の赤コウラ投げがクッパに決まった!
思わずガッツする横で、やけに静かだなと思う間も無く、ディーンの頭が、くてんと俺の肩へと落ちてきた。
「!?」
「……くー……」
横を見れば、どうやら寝落ちしたらしいディーンの顔が超至近距離にあった。
まつげが長い…
なんだこれ、
どうすればいいんだ?
画面では盛大にスピンしたカートがコースアウトして消えていき、コントロールをやめてしまった為にディーンのカートを追って自機もコースアウトした。
それでも俺の目は画面へと戻ることはなく、すぐそばにあるディーンから目が離せないんだ。
何をしようとしたかは自分でも判らない。
ただ、もっと距離を近づけたくなって。
顔を近づけようとした時、
「…………」
すぐ後ろに、ディーンの守護天使が立っている事に気付いた。
「おひゃあああ!?」
思わずハンズアップした俺に、飛んできたのは拳では無かった。かと言って武器でも無く、天使はそっと俺とディーンに毛布を被せてくれたのだった。
慈愛すら感じさせる眼差しでぽつりと言った。
「君が動けば彼も目覚める。だから君も寝るべきだ」
ぽかんとしている俺の前でおもむろに頷くと天使は消え去った。
これがもし、サムだったら問答無用で俺とディーンを引っぺがすだろうに……まさか毛布をかけて風邪をひかないように、と思いやってくれるだなんて。
余裕のある大人の男とは、きっとアイツみたいな事を言うのだろう。言葉少なに粋なはからい。
超カッコイイ……。
俺も、ああいう感じになりたいものだと深く心に刻んだのだった。
*
「……で、何なのよキャス」
「だから、先ほどから説明しているだろうアンナ。私は彼とディーンが仲良くしている様を見るだけで心にモヤがかかるようで、心底むかむかするというのに、気づいた時には何故か2人に毛布をかけていた…な、何を言っているか判らないだろうが私だって何が何やらさっぱりで」
「落ちつきなさい」
「判らない…まるで習慣のように手が動いたんだ…器に欠陥が出てきたのだろうか」
「それは多分ね、器であるジミーが生前に子どもに対してやってた習慣なんじゃないの?それが無意識下で体に残っていたのねぇ…ちょっとしんみり」
「しんみりなどしない。これが『敵に塩を送る』というものなのか?こうしている間にもディーンがなにかされていたらと思うと…しかし起こすのも、しのびないし…ああ、どうしたらいいんだ」
「もぉ!ちょっとは余裕を持ちなさいよキャス!!」