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暑かったからという大義名分(SD)
デリバリーを買ってきて部屋へ戻れば、ベッドに転がって目を閉じている兄がいた。暑い日が続いてるせいか、いつもよりだらしなく横たわっている。こうして黙ってるとまるで彫刻みたいだ……。うっとり。
「起きてよ、眠り姫」
言いながらキスをしようとすると、
「お前…すげぇ鳥肌立ったぜ…一瞬で目が覚めた」
瞬時に起き上がって軽い頭突きが飛んできた。
「そう?じゃあ今度からこうやって起こそうかな」
「鉛玉くらう覚悟があるならやってみろ」
まったく、照れ屋なんだから。
「今日も暑いな」
「そうだね……って、うわ」
調達してきた食べ物を机に置いていたら急に襟首を掴まれて、僕はそのまま引っ張られた。
「ちょっと、いきなり何?どこ行くんだよ、ディー…わぁ!」
されるがままにしていたら、足はバスルームを越えていく。そのまま更に引っ張られたせいでバランスを崩してバスタブへ着水した。
狭い世界が一瞬だけ青に染まって、もう一度顔を上げれば、満面で笑う兄の顔がそこにあった。肌に感じる水温は冷たくて、バスタブいっぱいにはられている水をよけながら仁王立ちして、兄は言う。
「ランドリー行く手間がはぶけただろ」
「……もう、バカ兄貴!」
間髪いれずに胸倉を掴んでバスタブへ引き込むと、一瞬後に、とびっきりの悪態と共に濡れねずみになった兄が水面から現れた。
「なんで俺まで!?」
「そっちから先にやったんだろ!」
決して広いとは言えないバスタブの中から立ち上がろうとする背を追って、抱きしめてみる。
「何しやがる!」
「僕の帰りを待ってたんだ?」
一回り小さい兄が、すぽんと僕の前に収まるのが嬉しくて声も弾む。
「お前はたまに自意識過剰になるよな」
「水いっぱいにするには時間かかるだろ。こうやって僕と水風呂入りたくて待ってたんでしょ」
ぎゅうっと抱きついて頬を兄の肩へ擦りつければ、感触が気持ち悪いとむずがる体に緩む頬。
「……違う」
耳まで赤くして縮こまっておいて、何を言うのだろうか、この兄は。
「えへへ」
「きっしょく悪ぃな、ホント!」
「だってディーン、体は正直なんだもんな」
「なぁ、セクハラってレベルじゃねぇぞ、お前の言い方!訴えれば俺が勝てるレベル」
「かっわいいなぁ」
「だ、ま、れ」
お腹に回した両腕を、つねられたけれど痛くなかった。それより、うなじをつたう水滴に目がいって仕方ない。首筋を舐め上げれば裏拳がポコンと飛んできた。
「ディーン、大好き。これ毎日やってもいいよ、確かにランドリー行く手間もはぶけるし、水も節約できるね、二人で入れば」
「やらねぇ。もう絶対やらねぇ。調子に乗りやがって!今日こんな事やったのはだな、」
暑かったからだ、とわめこうとするのを、唇でふさいで、狭い青の世界へと僕らは再び潜水した。