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彼と私と情報伝達の齟齬(CD)


彼の声が聞こえたので降りていってみた。

「抱き枕ができると聞いて」

「おい、サムを助けてくれって呼んだ時は二時間以上待たせたくせに五分も経ってねぇぞ、今回」
「ところでまたサミュエルがいないようだが」

「さっき泣きながら出てった…何でかはわからん。あいつも複雑な年頃だからな。たまにヒステリー起こすんだよ。腹が減ったら帰ってくると思うぞ」
「犬だったのか、彼は」

「今日の狩りは久々に大がかりでさ…どうせ、見てたんだろ? もうだめだ動けねぇ。眠い、寝る」

そんな事をうめきながら、彼がベッドへ潜っていったので見よう見まねで右からもそもそ潜ってみる。

ベッドというものは、ふわふわしていて暖かい。

それとも暖かいのはすぐ隣に、彼の体温があるからかもしれない。いずれにしろ気にいった。

「俺は脱ぐ気力ねぇ程疲れたからTシャツで寝るけどお前、コートとスーツ着たまま寝るの?」
「そうか。裸になるのがマナーなのか」

聞き返せば彼は何故か、口ごもる。

「……よ、余計な事言った。気にすんな」
「実を言うと脱ぎ方が判らない」

そう言ってから両手を上げてみれば、

「やっぱいい。脱ぐな」

墓穴を掘ってしまった、と顔に書いた彼が横を向く。

「いや、君に脱がせてほしい」
「そういう趣味は俺に無い」
「私にはある」
「うあー俺が悪かったよ!こんちくしょう!」

ぼふん、と枕に顔を埋める彼の表情が見たくて、覗こうとかがめば黙って寝ろ、とばかりに体を押さえつけられた。あまり意地悪くすると彼は拗ねるので、おとなしく止めて横になった。

「……おい、ちょっと待て」
「なんだ、脱がせてくれる気にでもなったか」
「ならない……で、どうして俺を抱きしめてんだ?」

「抱き枕」

「あれ!?お前が抱き枕したいって言っただろ!」
「抱き枕をするとは言ったが私が枕になるわけがないだろう、君が枕に」
「いやいや、抱き枕をやってみたいって言うから…お前が抱き枕だろ普通!」

「何故、私が」

「だ、騙した!天使が嘘ついた!」
「身に覚えがない非を咎められても困る」

言いながらもディーンという枕をがっちり抱え込んだつもりだったのだが、枕はジタバタするのであまり寝心地が良いとは言えない。私の体勢が悪いのだろうか。おまけに顔を覗こうとすると頭突きを繰り出すという暴挙に出られたので、私は提案してみる。

「では折衷案を取ろう。それで妥協してくれ」
「あーあ、最初から了承するんじゃなかったよ!」

「こうすれば君もきっと満足だ」

彼の頭の下へ右手を滑りこませて、左手を彼の腰へぐるりと回す。

「う、おい、ちょっと、コレ……!」

そのままもっと引き寄せてみる。

「これで半分ずつだ。君は私の右手を枕に、私は君の体を抱き枕に」
「お前の要望だけ通ってるじゃねえか、それ!」

「まだ文句があるのなら私は君を意地でも抱え込んで寝るが」
「うがあああ、もう知らねぇ!もう疲れた!」

叫ぶと同時にコートへ顔をねじこんでしまった私の抱き枕だったが、言葉とは裏腹に右手の角度調整をこっそりと測っているのを見てしまった。

通常より高い体温、彼の匂いを感じて、柔らかな髪、健やかな吐息が顎や喉をくすぐる感覚は、想像よりも至福を感じるものだった。


数時間して、帰宅した彼の弟が彼の腹に手を回して反対側で眠ろうとしているのに気配で気がついたが、彼は何故か泣きながら兄にすがりついていたので私は寝たふりをして見なかったことにした。

※朝になったら両側とも抱き枕に蹴飛ばされます。
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