Project&Request
□Fallen Angel〜風化風葬〜(CD)
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「…年が立つごとに、だんだん曖昧になっていくんだ」
「メアリーの事か?」
微調整する私を不思議そうに見やってから彼は言う。
「おふくろが死んだあの夜のことは覚えてる。けど、それより前が薄れるんだよ。どんな声で俺を呼んだのかとか、抱いてくれた体の柔らかさや体温。そういうのが、少しずつ俺の中から消えてっちまう。だから時々、こうして写真を見て思い出そうとするんだ」
「……よく、わからない。それは大切な事なのか」
「お前には判らないだろうな」
苦笑して、ぼんやりと彼が空を見上げた。
「…………親父も……親父の事も、ちょっとずつ忘れていくのかな。俺はそれが怖い」
ひとりごちたその軽い呟きは、声色とは真逆の重さを秘めていた。
『人間の記憶は、風化する事で新しいものをとりこんでゆく』
かつてそう言ったのは、ウリエルだったか。
『そうしなければ先に進めない種族なのだ。実に愚かしいだろう、カスティエル…もっとも先になど進んでいないな、奴らは。争いを何度繰り返しても風化してしまうがゆえに判らないのだ、それが不毛な争いだと』
けれどウリエル。
私達だって、たいして変わらないじゃないか。