Project&Request

□Black Veil〜Pair in the Dark〜
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「おい、献金するからちょっと手離せ」

「判った、『ちょっと』でいいんだな」
「……今のは言葉のあや。『ずっと』手を離せ」

少年達に何か用があるらしい。彼は皮の袋を抱えた子どもに近づくと、その袋の中へ金を入れてやっていた。

子どもらと同じ目線に屈み、話かけるその姿は慈愛にあふれていて、

「まるで天使のようだな、君は」
「なにそれ、ボケ?自虐ネタか?それともバカにされてんのか俺は」

もしかすると歌を聴いたら、あの袋に金銭を入れてやるのがマナーなのだろうか。

ならば私も従わなければ。

ごそごそとコートの中をさぐれば紙幣が5枚ほど出てきた。それがどのくらいの価値になるのか、また歌に対してどれほどの謝礼になるのかは判らない。

しかし、これは地上で流通している金銭なのだからこれで謝礼になるはずだ。

彼のまねをして袋へそれを入れてやれば、子どもは満面の笑みを返してくれた。付き添っていた年若いシスターが私に微笑む。

「あなた方に神の祝福がありますように」

それは感謝の言葉に違いなかったが、私達にとってはこの上ない皮肉の言葉にしか聞こえなかった。

去ってゆく子らに手を振りながら、彼が言う。

「ちょっと、びっくりした」
「何がだ」

「献金に20ドル札をポイっと5枚もお前が出したりすると思わなかったからさ」
「あれは20ドルというのか。紙幣価値としては高いのか?まあ、それはどうでもいいんだ。服を探ったら入っていたから君のまねをしただけで……しかし、何故私はあんなものを持っていたのだろう……君が入れたのか、ディーン」
「入れるわけねぇだろ、100ドルあれば俺だったらうまいもんでも…おい、待った。お前その発言は…『服を探ったら入ってた』だぁ!?俺の見てないとこで何したんだ!?体でも売ったのか、覚えが無いってそんな怪しい金を献金しちまったのか!?」
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