SPN

□Bad apple〜Hungry Spider〜
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昼間買ってきたリンゴを手に、ディーンは戻ってくると僕のベッドへ腰を下ろす。そうして、横になっている僕を慰めるように柔らかく、手でなだめながら反対の手ではリンゴをかじり始めた。
「何してんの」
「見りゃ、判るだろ?リンゴ食ってる」
「僕のベッドだよ」
「知ってるけど、それが何だ?―早く寝ろ」
数時間前、動けなくなるくらいステーキを食べていたこの優しい嘘つきは、僕が安心して眠れるように、ぽん、ぽんとあやすリズムでシーツを叩いた。

薄いカーテンからもれる月明かりを浴びて金に染まる髪、長い睫毛が影を落とす光を近くで見たくて起き上がると、困ったように彼は微笑んだ。
昔からずっと変わらない、よどみの無い光が僕を映して揺らめく。

彼は知らない。その光に焦がれて羽虫が集まってくることを。
彼は気づかない。彼に焦がれ続ける、真っ黒な蜘蛛の存在を。

もし気がつかれたとしたら蜘蛛は躊躇なく、逃げない様に羽根をむしり、出れない様に糸を張り巡らせて彼を閉じこめるだろう。

その様を想像して、彼に見えないように、うっすらと嗤った。
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