SPN
□Devil inside(CD)
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「絶対にありえないって思ったから期待しなかったのに!嬉しいよ、ディーン!!」
「それ、店の姉ちゃんがくれたんだ。成程な、今日はバレンタインだったか」
あ、そう……と脱力。天国から一瞬で躊躇い無く蹴り落とされた感じ。
でも良いんだ。普段あれほど食に貪欲な兄が、しかも女のひとから自分宛にもらった物を手もつけずに僕にくれたってのは、けっこうすごいことだよ……うん……。
「お、それ美味そう。やっぱ1個くれ」
「……いいよって言う前に持ってった……じゃあ、僕もそっちの1個……」
「ダメだ!」
僕にくれた箱から1個ふんだくったのに僕があげたものに手を伸ばそうとしたら、思いっきり拒否された。何だよ、自分はこっちから盗ったのに、と頬を膨らませると、自分でも自分の反応に驚いたような顔をしてから、ディーンはとても小さな声で呟いた。
「……だって、これはお前が俺にくれたやつだから、誰にもやりたくない。お前にも」
恥じるように下を向いたままの姿は、やけにいじらしく。
「だ、大事に食べるからダメだ」
ますます消え入りそうな声が、とびきり甘かったものだから、心臓が音を立てて撃ち抜かれたように脈打って、体温が一気に上昇した。
僕はありったけの理性と戦っていたけれど、すぐ横で紅く染まるうなじを見てしまった。
もう限界……!
「ディ……!」
コンコン。
フロントガラスを、ノックする音がした。
「なんだ!警察か!?」
ディーンは慌てて顔を上げ、窓へと向きなおったので僕が広げた両手は大きく空を切った。
なんっだよ…こんな時に!これ以上ないムードなのに!