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□ぬるいキスをしたね(SD)
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とうとう、堪忍袋の緒が切れて、僕は絶叫した。
あいつ、ぶっ殺してやる!

食べカスの散らばるベッドの上で、すっかり縮こまった兄の説明を聞く。
一週間ちょっと前に、天使にされた事と公園でされた事の一部始終。今までいい加減にはぐらかされていたぶん、怒りは相乗されていた。

ナイフをテーブルに刺しながら、
「それは、フランツ・グリルパルツァー。オーストリアの劇作家の有名な言葉だね」
「何の事だ?」
「あいつがアンナに聞いたっていう『キスの意味の詩』の事」
「また学をひけらかしやがって……」
毒づこうとしたディーンの頬すれすれにナイフを飛ばしてやった。
「あの言葉を全部試されたなら、つまり、あいつはディーンに対して尊敬、友情、厚情、憧憬、懇願する気持ちを持ってるってわけだ。その上、」
とりわけ重要なのは、
「首へのキスが欲望、唇へのキスが愛情。たまたま目の前にいたのがディーンだったからやったわけじゃなくて、そもそも目の前にいるのがディーンじゃなかったらやってない」
という事が立証されて、僕は腕を組み、兄を睨む。
その時の光景を思い出してでもいるのか、ほんのり頬を染めてるのがまた腹ただしい。

だいたい、ディーンはいつもこうだ。
情に厚く、犬やら猫やら小動物系に弱く、すがってこられたり懐かれたりすると放っておけずに無闇に優しくしてしまうんだから、僕はいつも気がぬけない。
あの天使は思いっきり、ディーンに欲と愛を抱いてしまってるじゃないか。

……そうなってしまった天使って、天使としてどうなんだろう、と少しだけ疑問。
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