SPN
□Navigatoria
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誰にも言った事は無いが、僕の頭の中には僕だけの美術館がある。
今までの人生の中で心に焼きついた瞬間や、風景。そういったものを数十枚、額縁に入れて陳列してあるんだ。僕が触れればそれらは額の中で映画を再生するように動き出し、その時を思い返せる。マインド・パレスと呼ぶほど上等なものではなく、ただ疲れた時や頭を休めたい時、そこに行って何も考えず、並ぶそれらを眺め、時に触れて人生を見つめ返す。
『やはりここは君の兄に関するものが多い』
気難しげに言うのはフード付きのパーカーを着た影法師。一生、誰も招かないだろうと思われた美術館は無論、警備なんかつけていなかったので、過去、一人だけ異物の侵入を許してしまったらしい。
『ここは相も変わらずディーンに関するものばかりだ。この傾向はよくないと思う。いくつか整理してはどうだ』
コレクションに難癖をつけられる覚えはない。僕の人生、言う程、ディーンばかりではないはずだ。遺憾の意。
『いいや、偏っている。しかも、彼以外の絵は印象派だったり写実主義なのに、彼に関するものだと途端にロマン主義になる。それも君達兄弟の関係に悪い影響を及ぼしている気がする。図録は? 無い? ならば君が触れて解説を。美術館にはあるだろう、音声解説というやつだ。いくつか気になるものがあったんだ』
そう言うと、パーカーの下で腕を組みながら、歩いて行ってしまった。言われっぱなしもシャクだし、しょうがないから解説しながら反論をしてやる事にした。