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甘い男のおすそ分け
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※兄貴の料理スキルが高いとS8で知ったので/賢人のアジトで(サム視点)
徹夜した次の日。遅いランチをとりに部屋からのそのそと這い出てキッチンまでやってきたら、ダンボールとかでバリケードが設置されていた。
「んん……?」
入るべからず、と書かれた紙をクシャクシャにして放り投げ、ダンボールをのけようとしたが、
「わわ、サム!?もう起きたのか?今、工事中だから入んな!」
バリケードの向こうからガタゴトと物音。そして向こう側からかかる圧力。これは只事ではない。何があったんだろう?僕は慌てて聞いてみる。
「兄貴どうした!?大丈夫?結婚する?」
「し、しない……」
チッ
「決して中を覗かないでください、覗いたらツルになって飛んでくぞって、昔話にもあるだろ、見んな」
「今でさえマジエンジェルな兄貴なのに、この上、翼なんか生えたら大変だ、阻止しなきゃ」
「もう少しだから待ってろって!!なんなら今、俺がバーガー作って持ってくから!」
「いいよお兄様の手を煩わせるなんて申し訳ないよ」
「えっと、あの、その、し、C4爆弾を作成中だ。立ち入りを禁ず!」
嘘だろ兄貴。
「キッチンで爆弾作りとか危ないじゃないか。ブレイキング・バッドじゃあるまいし」
むしろ、ブリーフ姿で料理する兄貴だったら何が何でも見たいが。
全力でダンボールをべりべりやってやれば、向こう側で慌てた顔が覗いた。力ずくで乗り越えたバリケードを放り棄て、僕はキッチンを見て目を丸くした。
むせ返るくらいのカカオの香り、調理台には何個も並んだパイ、そしてエプロンをつけた兄の手には、溶けた大量のチョコレート入りの大きなボウル。
顔を赤らめて唇をとんがらせ、ぷいっとそっぽを向く。
「だ、だから入んなって言ったのに!」
〜間〜
……聞かずとも吐いた兄の言い訳によれば、僕が寝てる間に少しドライブしてきたのだという。そこでチョコが安かったので、菓子も高いこのご時世、あくまで自分の為にスイーツを作成していたのだという。しかし、
「いや、君が先ほど立ち寄ってきた街で売られていた『好きな相手にあげればずっと一緒にいられるチョコレート』は名物だと説明されていたじゃないか。別に安売りはしていなかった」
ばさっと羽音と共に、眠たそうな顔をしたトレンチ天使が胡乱げにディーンの背後へ現れ、そんな事を言ったので、ディーンはボウルを放り出してヘラで殴りつけた。
「だから!人の日常を勝手にのぞき見すんのは!やめろって俺は何度も言ってんだろうがぁぁぁぁ!?」
チョコのついたプラスチックのヘラでペチペチ殴られてるキャスをも倒す勢いで、ディーンの背後から抱き着いた。
「ああ兄貴!!ごめんね、あんなに一緒だったのに夕暮れはもう違う色だなんて本編で突き放したりして!!」
「!?な、何の話!?」
ディーンの前で、キャスもその肩を抱く。
「それで、聞いてもいいだろうか。君の「ずっと一緒にいたい相手」が誰なのかを」
「ああ僕も聞きたいな、心底」
ぐぬぬ……と呻き声。
エプロンの裾をぎゅっと握りしめ、僕を振り返り見て、消え入るような声が、一番形の整っているパイを指さし、囁いた。
「……そ、その一番よくできたのを、お前達二人で半分こ、しろ」
……素早くパイを六分割して、そのうち一切れを寛大にもくれてやったというのに、
「それは半分とは言わない」
と、強欲天使はフォークを掲げて襲いかかってきたので僕は残りのパイを両腕に抱え、アジト内をしばらくキャスと鬼ごっこする羽目になったのだった。
〜in煉獄〜
襲ってきた人狼の頭上に穴が開いたと思ったら、そこから何やら大きな箱が落ちてきた。人狼を退治してからベニーは箱の中を覗く。
「親方ぁ、空から武器とフォンダンショコラが!……なんつって」
開けてみれば沢山の武器と、小さな箱が入っていた。箱の中身は湯気の出るフォンダンショコラ。しかし、汚れた手のまま行儀悪く少し割ってみれば、内部に入っていたのはチョコレートソースではなく輸血用の血液のようだった。
「マジかよ、お前にしちゃ、粋な計らいだなオイ」
苦笑いしながらベニーは溜息をついた。送り込んできた人物に心当たりはついているようだ。
「ホワイトデーはどう三倍返ししろってんだ?迷いこんできた人間でも送ってやりゃあ、あいつ喜ぶかなあ」
相変わらず甘すぎるぜ、とショコラに食いつきながら、ベニーはにやつく口元を押さえるのだった。