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□man friday(サンプル)
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「キャス?」

夢の中で目が覚めるというのも妙な話だが、瞬きをするうちに鮮明になる視界には、見知ったトレンチコートの背が見えた。

「どこへ行くんだ?」
「君が望むならどこへでも」

声と共に振り向くキャスの肩ごしに見えたのは、この世ならざる景色だった。

「おぉ……」

目前には霧がかる湖。
草原の中心にあるそれは、女神でも出てきそうな程、透き通って波一つ無い。
遮蔽物の無い、どこまでも広がる群青の夜空に、落ちてきそうなほど近すぎて若干、怖くも感じる月が浮かんでいる。人工的な灯りの一切ない草原と湖を、ふんわりとした月明かりだけが包んでいた。

星はプラネタリウムで見るよりも無数に浮かぶ。肉眼では捉える事のできない淡い星や、個々の光跡、そしてその色の違いまで見る事ができるのが、ここが地上ではないという事を意味していた。鳥肌が立つくらい、それは美しい光景だった。

「ここは天界の湖だ。君が、きれいな夜空を見たいと言ったから繋げた」
「繋げたって?俺の夢の中に?おかしな話だな」
「夢とは大抵がおかしなものだ」



「キャスーッ!」

モーテルの部屋の中で、サムは必死になって天使の名を呼んでいた。
呼び続けて数十分。応答は未だ無く、肩で息をしながら切れ切れに呟く。

「いないのかな。ディーンが大変なのに……」

ため息交じりのその声に被さるように、羽ばたき音がした。顔を上げれば、キャスが無表情で目の前に立っていた。

「ディーンが?どうしたんだ」
「……あのさ、何でディーンの名前出したら間髪入れずに来たのか、聞いていい?」

「無論、私は彼の守護天使なので」
「僕の声、聞こえてたよね?」

「無論。君は私の守護対象ではないので」
「殴ってもいい?」

「駄目だ。それでディーンがどうしたと言うんだ」

憤りをこらえているサムの足に、しがみついている「何か」を発見したのは、その時だった。

「…………?」

視線を向けられている事に気づいたのか、サムの後ろから、それは、ひょこっと顔を出した。

「…………」
「…………」

目線がかち合い、見つめあう。果たしてサムの背後にいたのは、四歳くらいの子供だった。マッシュルームカットで金茶の髪が、ふわふわ揺れる。

「キャス。おれだぞ」

舌っ足らずなソプラノが、自慢げな口調で言った。緑のまん丸な瞳。キャスは、恐る恐る口を開く。

「…………ディーン?」
「うん」

こくり、と頷いた子供を、サムと二人して途方に暮れた目でしばらく見続けてしまった。

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