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□Brother friday(サンプル)
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『――ある朝、グレゴール・ザムザが目を覚ますと虫になっていた。』

そういう書き出しで始まる小説がある。

ある日、起きたら虫だった、とか最悪だなと思ったものだが、僕が知らないだけで、世界にはそういう出来事が多々あるのかもしれない。
何故かって?

――ある朝、サム・ウィンチェスターが目を覚ますと、実の兄が子供になっていた。


僕の場合は、こうだったからさ。


〜Brother friday ver.orion〜


【サムの記録・冬のあにき】から抜粋

そういうわけで、この記録の書き出しはこうである。

ある朝、サム・ウィンチェスターが目を覚ますと、実の兄が幼児になっていた。
 
何故か僕のベッドに入り、傍らで寝入っている兄の体は、ちんまりと小さくなっていた。

外見から察するに四、五歳くらいの子供の姿だ。長くバサバサしている睫毛、印象的な唇は見慣れた兄のそれであったが、いつものツンツンヘアーと違ってふわふわの金茶の髪をしていた。

ウィリアム・ブグローが描くような天使が、まさに目前で眠っていた。

僕は、この事態にひどく混乱し、動転し忘我した。

ただでさえ、可愛い兄が天使になってしまった。天使と言ってもトレンチコートを着た、うすらボケ自称天使とは違う。本物の天使だ。

なんだこれ、なんだこれ……と頭を抱え起こさないように無言で悶えていた時、その長い睫毛が開いた。

「!」

そこにあったのは、身間違いようのない鮮やかなヘイゼルグリーンの瞳で、ああこれは兄に違いない、と僕は悟ってしまった。

その、くりくりした目で僕を見た兄は、にっこりと慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、首をこてんと傾げた。

「サミー、おっき?」
「ひぇぇ」

別の所が、おっきしそうだよ……とは言えず。

いつもの兄の声ではない。舌ったらずなソプラノだ。可愛すぎて辛い。顔を覆って固まった僕に、ちっちゃな手が触れて、

「だめ。もうちょっと、ねんね」

すりっと頬を擦りつけて、目を閉じる。

しばらく、その小さな手でぽんぽんと僕を叩いて、あやしているようだったが、そのうち、ぷうぷう、と寝息が聞こえてきた。

くっついて眠ってしまった天使を震えながら見つめつつ、僕はもう一方の天使(小汚い方)を呼び出す事を決意した。ギブアップ!
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