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□今宵も世界は恋に酔う(SD)
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海岸沿いを走る時、兄の機嫌はとても良くなる。
そういう時に限って適当なモーテルは無くて、じゃあ夜通しインパラを飛ばそうぜと決断するのもいつもより早くなるんだ。
どこまで飛ばすつもりなの?″
そう僕が聞くと、いつもの勝気な顔で自信たっぷりにこう言う。
「世界の果てまで!」
その瞬間、ちょっと僕は誇らしくなる。
だってそれって世界が終わる場所に行くまで、僕はディーンの横にいろっていう事だろ?
しかし兄の「世界の果て」とは得てして近いもので。
時刻は九時をまわった頃。
ガードレールが続く沿岸沿いの道に出てすぐ、眼下に広がる海を見に行こうとハンドルを切った。
チカチカと瞬く、頼りない街灯を横目に見ながら海へ繋がる脇道を下りていく。
砂浜を突っ切り、インパラは道なき道を勢いよく進んで、波打ち際のすぐ前で止まった。
「どうしたのさ、いつもなら砂がつくとか、潮風が俺のレディのボディーを痛ませるとか言って海まで突入なんかしないくせに。というか、ここまで車入れちゃっていいものなのかな?まあ、僕の意見なんか兄貴はいつも聞かないから別にいいんだけどね」
「海が俺を呼んでいた!」
そう一言告げたかと思ったら、エンジンを切っておたけびを上げながら波打ち際へ走って行った。
僕が止める間も無く、しかもタイミング良く大波が来た所で、次の瞬間には凄まじい水音を立てながらディーンは波をかぶっていた。